■シリア危機から7年 「長期の紛争では子どもが一番の犠牲者に」

堀) よろしくお願いします。 アドリー・小田) よろしくお願いします。 堀) アドリーさんにはちょうど去年の6月にお話を伺った時には、これからいよいよAAR Japanさんで研修も受けて日本からシリアへの支援を始めますということでした(その際の記事はこちら→https://gardenjournalism.com/feature/20170630/)。今は具体的にどんな活動をされているのか教えてください。 アドリー) トルコでシリア難民を支援する事業を少しだけ担当していたり、シリアに関する講演をしたりしています。 堀) シリア内戦が激しくなって、今月(2018年3月)で7年が経過しましたね。今、市民の皆さんはどのような状況なのでしょうか? アドリー) 人によって、また住んでいる場所によっても全然違います。とても大変な生活をしている人もいれば、なんとかやってきている人もいます。例えば、私が住んでいたダマスカスでは、仕事にも学校にも行けますので、国内の他の場所と比べたらマシだと言われます。しかし、別の攻撃の激しい場所では、食糧がなかったりとか、家から出入りができなかったり、仕事にも行けなかったり、という人もいます。 堀) 故郷への想いはどのようなものがありますか? アドリー) それは言葉では説明できないです。やっぱり、「終わって欲しい」という気持ちばかりです。 堀) 7年って長いですよね。7年間続くことの一番の問題はどんなところに感じますか? アドリー) 今学校に行けない世代が生まれてきました。大人にとったら7年は短いかもしれませんが、子どもにとったらとても長い。例えば、2011年に6歳だった子どもが、小学校も中学校も行けなくなって、文字が書けなくなってくるなど、長期の紛争では子どもが一番の犠牲者になっています。 [caption id="attachment_2746" align="alignnone" width="1024"] AAR Japanがトルコ南東部で運営するコミュニティセンターで勉強するシリア難民の子どもたち[/caption] 堀) シリアに関しては日本での報道が少なくなってきたと感じるのですけど、ラガドさんはどのように感じていますか?また、注目が薄まってしまいうと、実際にどういうリスクがあるでしょうか? アドリー) やはり、もう少し伝わって欲しいですね、毎日シリアで起きていることを。大事なニュースがあっても日本であまり報道されていないので。報道されないと感心も減り、支援も減ってきてしまいます。シリア危機は終わっているわけではありません。もう少し見て知って、ただただいろんな人にいろんなところで話して欲しいです。「シリアでまだ続いてますよ」というくらいでいい。それが続いていくと、もう少し世界がシリアを見るようになり、支援も入ってくると思います。 堀) 何を一番知って欲しいですか? アドリー) 「私たちのことを見てください」とか、「私たちが毎日どのような生活をしているのか見てください」とか、「何で見ていないのか」というシリアからの動画がネットでよく上がっていて。単純な言い方なのですが、彼らのことを、彼らの気持ちを、知ってもらいたいです。 [caption id="attachment_2748" align="alignnone" width="1024"] AAR Japanがトルコ南東部で運営するコミュニティセンターで行なった音楽発表会で元気よく歌うシリア難民の子どもたち[/caption]

■トルコ国内の約350万人のシリア難民 多様化したニーズに個別な支援を

堀) 小田さん、AAR Japanさんはトルコでのシリア難民の支援を活動をAARでも続けていらっしゃいますが、支援の現状を教えてください。 小田) シリアからトルコに入ってくる難民の数は、一時は本当に大量の人が国境に押しかけてきて、怒涛のようにトルコに入ってきていたのですが、今は国境ゲートを閉めているという事もありそんなに多くはありません。それでも越境してくる人たちもいます。また、まだ難民登録していなかった人たちがだんだん登録してきているので、登録済みの難民の数が増えているということはあります。最初に押し寄せてきた時は、着の身着のままで逃げてくるので、食糧や住居などいろんな問題がありますが、それは一過的な問題に過ぎません。しかし今、避難先のトルコで何年も住んでくると、他の問題が発生してきているんです。それは、最初に難民が押し寄せてきた時のひとかたまりの問題と違って、個人が抱えている問題。例えば、「難民登録して労働許可を取りたい」という方もいれば、負傷していたりずっと病気を持っていたりという健康的な問題を持ってる方も。また、子どもの教育も深刻です。アラビア語が全然できていない子が増えてきています。それぞれの問題があまりにも多様になってきているので、私たちもひとかたまりの支援ではなく、一人一人のニーズに合った支援を考えています。 堀) 細かな、一人一人のニーズに合った支援が必要になってきているということですが、具体的にはどういうケースがありますか? 小田) 例えば、医療やお薬の問題では、これまでは一様に車椅子をお渡ししていました。しかし、足の不自由な方だけではなくて、視覚障害のある方、聴覚障害のある方。それに糖尿病、腎臓病などいろんな病気の方もいます。それぞれの医療機関に行くにしても医薬品にしても、全く違いますので、そういうところのバックアップをしています。私たちのシリア人のスタッフが街に出て家庭訪問を行ってシリアの方の話を聞き、そこから汲み取って何ができるかを考えています。 [caption id="attachment_2744" align="alignnone" width="1024"] シリア・ダマスカスの自宅で頭に砲撃を受け、その後遺症で左半身が麻痺してしまったオマルさん。現在は妻と一緒にトルコ南東部の街・シャンルウルファで暮らしています。AAR Japanから杖や歩行を補助するブーツを提供してもらい、リハビリを続けています。帰れないとわかっていても、シリアに戻り、怪我をする前の生活を取り戻したいと願っています。[/caption] 堀) 本来であれば、難民の皆さんも支援が落ち着いて、本国に戻れるようにサポートしていくことになると思うのですが、今は戻れるような状況ではないですよね。 小田) そうですね。トルコの政府も、トルコの中でどのように受け入れていくかと考えていますが、受け入れるといっても約350万人いると言われているシリア難民を全員受け入れるのは難しい。しかし、現実的にシリア国内の治安や状況が収まらないと安心して住める、帰れる国はできません。シリア難民の方達も先々を考えると本当に不安だと思います。しかし、トルコ国内でのシリアに対する関心も一時期に比べると減っています。それだけ、シリア難民とのトラブルも起きなくなってきているということもありますが。お腹が空いたらパンを分け与えてあげるというような、市民が手助けしてあげられる問題ではなくなってきているので、難民の人たちが未だに大変な生活をしている、先々の不安を感じながら暮らしているということをもう一度再認識し、忘れないでいてほしいと思います。 [caption id="attachment_2742" align="alignnone" width="1024"] 故郷シリア・アレッポでの砲撃で右足を失ったレザーンちゃん(5歳)。同じ砲撃で当時2歳だった弟も失いました。現在は両親と妹と一緒にトルコ南東部の街・シャンルウルファで暮らしています。レザーンちゃんのように戦闘に巻き込まれ体が不自由になった人が多くいます。[/caption]

■シリア人留学生の受け入れ 「条件の広い奨学金を」

堀) 日本からは一体何ができるでしょうか?国ができること、市民ができることを教えてください。 アドリー) 市民としては、やはり知るということから始めてほしいです。自分が遠くて安全な場所にいても他の国のことを忘れるべきではないと思います。国際ニュースを見るともう少し理解することができると思うので、自分で調べて自分で見て知った上で、そこで一人一人がどんなんことができるかを自分で判断して決めてほしいです。国としては、シリア人留学生の受け入れを、もう少し人数を増やし、その条件も広めてほしいです。優秀な人でもその条件に当てはまらないケースもたくさんあるので、今だからこそもう少し条件を優しくした方が来てくれる学生も増えると思います。 堀) 実際に、条件に当てはまらないというのはどういった理由があるのでしょうか? アドリー) 例えば、大学の卒業証書が必要なのですが、空爆などで家が無くなって、卒業証書をそこに置いていたために無くなってしまったとか。また、教授の推薦状が必要なのですが、教授が空爆で亡くなったり、その学生が難民になって相互連絡が取れなくなったり。こういう単純な理由で受け入れられなくなっています。自分が進学に力を入れたくても、日本だけではなくどこの国もそのような理由で受け入れられなくなったり、もう大学に行けなくなったりしています。あと、今は大学を卒業した上でこれからの進学先を考えている人向けの奨学金が多いのですが、大学に行きたい人向けには少ない気がします。大学で勉強したい人の方が多いので彼らのことももう少し見てほしい。そして、シリア国内で大学に通っている人のために何か条件の広い奨学金があれば、それが一番望ましいです。例えば、私のように日本語を勉強している人や日本に興味がある人たちがたくさんいるので、その人たちのために特別な奨学金やプログラムがあればと思います。 堀) 友人のシリア人ジャーナリストが、シリアは教育水準が高く、非常に優秀な若者たちが国の誇りだったと話していました。しかし、7年間紛争状況が続いて子どもたちが教育を受けられなかったり、大学生が勉強して専門的なスキルを深めたりすることも叶わない。シリアの未来が心配ですね。 アドリー) はい。とても心配しています。 堀) 今度、4月10日にイベントがありますが、どのようなことを期待したいですか? アドリー) できるだけ多くの人に来てもらいたいです。私たちが伝えられる事実を聞いて、自分で考えてほしいなと思います。

〜イベント情報〜

シリア危機から8度目の4月:堀潤と語る難民支援

堀潤と語る難民支援~GARDEN Journalism × クーリエ・ジャポン × AAR共催イベント

2011年3月から続くシリア紛争は、現在も終わりの見えないまま8度目の春を迎えます。メディアなどでクローズアップされる、戦闘の激しい地域や勢力はときに移り変わりますが、シリアで暮らす方々、シリアから難民として逃れる方々の苦しみは変わることなく続いています。現在、シリア難民は約558万人に上り(2018年2月15日、国連難民高等弁務官事務所)、さらに増え続けています。

このたび、ジャーナリストの堀潤さんをお迎えし、AAR Japan[難民を助ける会]東京事務局のシリア人職員ラガド・アドリー、トルコでのシリア難民支援を担当する小田隆子が、シリアの人々の暮らしや思い、支援活動などについてお話しします。貴重なこの機会にぜひご参加ください。

日時:2018年4月10日(火)午後7時―午後9時 会場:講談社2Fセミナールーム 東京都文京区音羽 2-12-21 東京メトロ有楽町線「護国寺」駅6番出口から徒歩1分(交通アクセス 別ウィンドウで開きます) 参加費:無料 定員:100名(事前にお申し込みをお願いいたします) 担当:AAR Japan[難民を助ける会]小川 共催:GARDEN Journalism、クーリエ・ジャポン、AAR Japan[難民を助ける会] 申込URL:https://goo.gl/17eEmN

観察ノート