■トランプ大統領「エルサレム首都宣言」 現地のその日、その瞬間

堀)
今日はよろしくお願いします。山村さんは、トランプ大統領が「エルサレム首都宣言」をした時には現地にいらっしゃったのですか?

山村)
はい、トランプ大統領のスピーチがあったその瞬間は、現地でアラビア語の授業を受けていました。

堀)
現地は今、どういう状況ですか?

山村)

今は、スピーチがあった直後よりは落ち着いていると思いますが、アメリカからの外交上の訪問者が現地を訪れる度に暴動が起きそうになります。特に、金曜日には集団礼拝が行われますので、その時には注意が必要だという情報が入ってくるようなという状況です。基本的には、直後より落ち着いているという認識でいます。

堀)
トランプ大統領がスピーチをした日はどんな状況でしたか?

山村)
あの日は朝から仕事の合間にパレスチナ人の方たちにインタビューをしていました。「さすがにトランプ大統領であっても、イスラエルの首都がエルサレムという発言はできないだろう」とパレスチナ人の方が言っていたように、「まさか言わないだろう」という意見を持っていた人が多いように思います。実際に現地のニュースでも、「ハマース(*1)」の指導者イスマーイール・ハニーヤ氏が「戦争も辞さない」と、「戦争」という言葉を実際に言及していたので、私も「まさか言わないだろう」という気持ちにもなっていました。しかしその日、アラビア語の授業中ずっとパソコンを見ながら中継をチェックしていたパレスチナ人の先生が、「今、まさに彼がイスラエルの首都はエルサレムだという発言をしてしまった」と。発言がなされた瞬間、下の階からアラビア語学校のガードさんが登ってきて、「もう終わりにするように」と言われました。先生も、検問所が荒れるのですぐに解散にしますということで。クラスメイトのアメリカ人とアラビア語の先生はベツレヘム(*2)からエルサレムに通っていたので、その2人は「検問所が荒れる前に家に帰らねばならない」ということで授業が終了時間の30分前くらいにお開きになりました。先生がその時に、「トランプ大統領は非常に愚か者だ。これで何人のイスラエル人・パレスチナ人が死ぬか。彼は全く分かっていない」という発言をしていたのが印象的でした。

(*1)ハマースは、国際的にはテロ集団とも呼ばれる政党。パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム系組織。

(*2)パレスチナのヨルダン川西岸地区南部のベツレヘム県の県都。エルサレムから約10km。パレスチナ自治区に属しており、ベツレヘムに入るにはイスラエル側の検問を経なければならない。

堀)
一緒に勉強をしているアメリカ人も複雑な受け止めだったんじゃないですか?

山村)
そうですね。彼女はベツレヘムでパレスチナ人に英語を教えています。アラビア語もすごく勉強していて、パレスチナ人に対する知識もすごくあって、現地の人に寄り添っているような立場の方なんです。学校からの帰り道に一緒に階段を下りながら、「本当に恥ずかしい。本当に信じられない。」ということを何回も繰り返し言っていたのが印象に残っています。

堀)
実際にガザ、エルサレムの方たちはどのような様子でしたか?

山村)
現地でインタビューを撮ったり、日本に帰ってきてからもチャットで話をしたりしたのですが、「自分たちの土地のことを、縁もゆかりもないトランプという愚かな大統領に決められたくない。エルサレムの暮らしがどんなものであるかを彼は知らないし、全く思い入れもない人に、エルサレムのことを決められたくない」「エルサレムは永遠にパレスチナの首都だ」という怒りがありました。ただ、同時に、トランプ大統領の発言があって急に暴動が起きたというよりかは、普段の占領下の生活の積み重ねで彼らが抑えてきていたもの、抱えてきたものが、あの発言によって外に出るようになったというだけだと思うんです。あの発言に驚いたというよりは、いつも抱えていた鬱憤や日頃のストレス、不満のようなものが、あの発言によって出た。トランプ大統領の発言は、本当ちょっとのきっかけで、大きなきっかけではなかったと、私は現場にいて感じました。特に、トランプ大統領の発言の前から「『オスロ合意(*3)』は失敗だった」という人々の声を聞いていたのですが、「それが証明されてしまった。和平合意は終わった」と発言をするパレスチナ人も多かったです。さらに、「アメリカは仲介者としての役割を完全に失った」という発言も聞かれましたし、「もともと仲介者だと思っていないわ」という発言をするパレスチナ人もいました。「これからは日本や中国、フランスに仲介になってほしい」と言う方もいました。「アメリカ以外の仲介者をとにかく探さなければならない」という雰囲気は絶対にあると思います。

(*3)1993年9月に調印されたパレスチナとイスラエルの和平に関する合意。パレスチナ暫定自治の枠組みなどを定めた。

堀)
日本や中国という名前があがるのですね。

山村)
そうですね。イスラエル占領下での苦しいパレスチナの状況を作った人たちは外して、それ以外の人たちにやってほしいというのは確かにあると思いますね。

■パレスチナ人の孤立感・疎外感「自分たちは見捨てられているんだ」

堀)
「オスロ合意が失敗だったと証明された」というのは、どのような思いでそのパレスチナ人は発言されたんだと思われますか?

山村)
そうですね。「自分たちがずっと和平合意において当事者になれなかった」という思いはずっとあると思いますね。人々の意見が反映されるような政治でもありませんでしたし。今回も国連安保理で「二国家解決(*4)」という発言が出てきていたのですが、実際に現地の方達に聞くと、「二国家解決」を望んでいる人ってあまりいなくて。1つの国の中でユダヤ人とアラブ人が、同等の権利の下で一緒に共存して暮らしていくのが現実的だと考える人が非常に多いです。しかし、そういうことを国連や西欧諸国もあまり認識していなかったり、認識していてもやはり「二国家解決」という言い方をしたり。どんな状況においてもパレスチナ人の方々の声がいろんな場面で反映されていないということを、現地の人たちとやりとりをする中で意識するようになりましたし、すごく痛感しています。彼らの意見がどんな場面でも反映されないというのは非常に深刻な問題だと思います。「自分たちのリーダーも好きになれないし、だからと言ってイスラエルやアメリカのリーダーももちろん好きになれない。アラブ諸国も救い出してくれない。自分たちの政府ですら腐敗していて頼れる人がいない。自分たちを救い出してくれる人が誰もいない。自分たちは見捨てられているんだ」という発言を現地の皆さんはされています。

(*4)「イスラエル・パレスチナ双方の間では、難民、入植地、エルサレム、国境画定など個々の問題の解決を図って、イスラエルとともに共存共栄するパレスチナ国家を建設することが目標とされている。」(外務省ホームページより)

堀)
周辺のアラブ諸国の皆さんからの疎外感というのは深刻みたいですね。

山村)
そうですね。特に、カタールからガザへの支援が止まってしまった時は、疎外感が非常にありました。また、常日頃からサウジアラビアやアラブ首長国連邦など石油で潤っている国がアラブ諸国の難民をきちんと受け入れないという現状や、産油国で働いているたくさんのパレスチナ人が苦しい待遇で暮らしているという状況もあります。「自分たちだけ潤って、なぜ同胞を助けないんだ」「どうして私たちだけがこのような暮らしをしなければならないんだ」というのは、パレスチナ人の中に根強くあると思います。特に、アメリカと仲良くしているサウジアラビアについては、「結局彼らもイスラエルの味方なんだ」という言い方をされる方も。そういった不満は非常に大きいと思います。

堀)
2017年4月に僕が山村さんたちに同行させてもらって現地に行った際にも、「世界中から忘れ去られて孤立した存在になっている状況をどうにかしてほしい。世界中が関わってほしい」という訴えを、一緒に車で回ったドライバーの方もお話されていましたよね。

山村)
そうですね。トランプ大統領の発言があってから、様々な国でデモをしている情報を現地の皆さんはニュースでチェックしています。「日本でも大阪と北海道でデモをやっていたよね」「自分たちと一緒に連帯してほしい」「おかしいということをきちんと声を上げて言ってほしい。そしてちゃんと政府に訴えてほしい」「あの発言は間違いだったということをちゃんと世界の人たちに日本人もアピールしていってほしい」とすごく言われましたね。

堀)
彼らの中での「おかしい」というのは、一番何が「おかしい」という訴えだと受け止めればよいのでしょうか?

山村)
世界でNo.1の権力と軍事力を持ったアメリカが背後に立った状態でイスラエルがパレスチナを潰そうとするのは、明らかに人権に反しています。「私たちと一緒に立ち上がってほしい」「この明らかな人権侵害に対してきちんとNOと言える世界であってほしい」という思いを彼らの中に感じます。

堀)
「天井のない監獄」とも言われるような状況をなぜ放置しておくのか、ということですよね。

山村)
そうですね。私も現地にいて、なぜこれがまかり通ってしまうのかということを毎日考えます。世界が倫理観ではなく、お金や権力を中心に回っているということの象徴なんだろうなと思っています。「ユダヤ人が迫害にあってこの地に来て、イスラエル人たちも他に行くところがないんだ」と分かっていて、実際に口に出して言うパレスチナ人もいました。アメリカがイスラエルをサポートしていることに代表するような、変えられないシステムの中でやっていかなければならないという悔しさや絶望があるんだと思います。

■「沸騰した鍋に蓋が閉まっているような状態。いつそれが吹き出してもおかしくない」

堀)
トランプ大統領の発言がある前からいろんな緊張があったと話されていましたが、その緊張は具体的にどのようなものだったのでしょうか?

山村)
そうですね。イスラム教徒が出入りするエルサレム旧市街のダマスカス門をイスラエル兵が立って管理しているという状況が起きているのですが、そこのイスラエル兵に向かって10代や20代の主に男性が最後の抵抗の手段として短いナイフを持って刺しに行くという事件が数ヶ月おきに起きています。車両で突っ込むような事件もあります。その度に、イスラエルの占領に対する怒りが沸き上がるのですが、それは日常的に起こるので、無くなることは決してないんですよね。占領が続いてパレスチナ人に対する強い人権侵害が行われている限り、そういった事件が起こり続けるということを私たちも住んでいてすごく分かります。現地に駐在しているジャーナリストの人たちも、「いつ緊張がワッと盛り上がるのかはなかなか予想がつかない」と。沸騰した鍋に蓋が閉まっているような状態で、いつそれが吹き出してもおかしくないというのが毎日の日常ですね。

堀)
あの発言の後は各地でデモや衝突などで一時非常に緊張が高まり、ガザにはイスラエルからの空爆もあり。発言直後の混乱期というのはどのような状況だったんですか?

山村)
(トランプ大統領の発言があった4日後には日本に帰国していて)実際に現地にいたわけではないのですが、ガザではずっと停電も続いていたので人々の絶望感も強くて。高い失業率に加えて、1日に数時間の電力しか供給されないという状況で、社会にいつにも増して閉塞感がありました。また、貧困も非常に進んでいましたので、街に前にいなかったような物乞いの子どもたちが現れたり、親も子どもを育てていくのが貧困がひどいので大変になって子どもを家から追い出し「物乞いでお金を稼いでくるまで帰ってくるな」と子どもに言う親もいたり。

堀)
「前はいなかった」と言う「前」はいつ頃のことでしょうか?

山村)
去年(2017年)に入って特に電力不足が激しくなっているので、その前と比較してというニュアンスです。ガザの難民キャンプに暮らす20代女性の友人が、「自分の家から仕事場に行くまでに、前は同じ道で2、3人しか物乞いを見なかったが、先週カウントしたら20数人だった」と。10倍くらい増えていると彼女もショックを受けていました。ガザ全体が閉塞感を持っているので、「もうすぐ次の戦争が起こるのではないか」という話もするようになってさらにふさぎ込んでしまっています。「ポジティブでいようとすることが本当に大変なの」と涙ながらに訴えている声も聞きました。

堀)
閉塞感が暴発するような、なんとか均衡を保っている状態がいつはじけてもおかしくないという状況が続いているんですね。

山村)
そうですね。貧困を元に離婚しなければならない夫婦も今増えてきているということも聞きます。

堀)
どういうことですか?

山村)
子どもを育てていけないので、夫が妻と子どもを実家に返してしまう。しかし実家に返しても貧困で育てられないので、子どもの何人かは父親の方に残すというケースもあります。ガザでも一握りの裕福な方はいらっしゃいますが、貧困レベルが非常に深刻だし拡大しているというのはあると思います。

堀)
僕が訪ねた時(2017年4月)よりさらにまた深刻さが増しているのでしょうか?

山村)
そうですね。「ファタハ(*5)」と「ハマース」が2017年10月に和解し、統一政府樹立に向けた動きが出てからは、電気は3時間だけ多くなったり、公務員の給料が少しずつ戻ってきたりということはありましたが、非常に進んだ貧困を急に回復するというのはなかなか難しいのではないかと思います。

(*5)パレスチナ自治政府の中核組織

■自分たちの力で立ち上がり乗り越える力を育てるという支援

堀)
山村さんは現在、パレスチナで具体的にどのような支援活動をされているのですか?

山村)
私たちは、東エルサレムとガザの2カ所で活動しています。東エルサレムでは先ほど説明したような、青少年が問題解決の手段として暴力というものを使ってしまうという事件が起きていることもありますし、毎日占領下で不満を抱えたような状態で彼らが健全に育つというのは非常に難しい。なので、そういった若者たちの「レジリエンス力(抵抗力)=しなやかに立ち戻る力」を高める。「この状態に慣れてくださいね」という抵抗力ではなくて、「どんな困難なことがあってもしなやかに立ち戻る力」を育てるプロジェクトを行なっています。具体的には、検問所の近くなど特に困難な状況にある学校を選び「保健委員会」を作り、そこの学校の子どもたちが自分たちの問題を発見し、それを地域の人たちと協力しながら解決していく。地域を繋げ直すという意味合いもありますが、学生たちが自尊心を取り戻すことにも繋がっています。さらに、「抵抗というのは暴力を振るうだけが、石を投げ返すだけが、刃物で立ち向かっていくだけが抵抗じゃないんだ。暴力以外の方法で地域の人たちと協力をして自分たちの問題を解決していくということが抵抗になるんだ」ということを子どもたちが認識してくれるようになっているので、これからも続けていく予定です。

©️JVC

堀)
ガザでは?

山村)
ガザは封鎖されており東エルサレムと状況は違うのですが、「子どもの栄養改善事業」をやっています。仕組みは東エルサレムと非常に似ているのですが、女性のボランティアさんたちを育てて、その人たちが保健や栄養に関するカウンセリングをできるようになり、家庭訪問をして母子保健を支えていくという活動です。最近は、「前向きな子育てをするにはどうしたらいいか」「暴力を使わずに子育てをしていくにはどういった工夫が必要なのか」など、お母さんたちの不満を聞いたりアドバイスをしたりして、家庭の中から状況を変えていこうという。栄養不足というのも深刻なのですが、そういった状況にもアプローチできる。女性たちも、東エルサレムの学生たちと同じように自尊心を取り戻していったり、自分たちで状況を乗り越えられるんだという自信をつけていったりという状況を、彼女たちの表情や取り組む姿勢を見て非常に強く感じています。女性ボランティアたちが訪問しカウンセリングをしたお母さんたちがまた自尊心をつけていったりとか、循環型ですね。どんどんどんどん広がっていく。私たちのパートナー団体が女性ボランティアさんたちをトレーニングしているのですが、現在30人の女性ボランティアさんがいます。そのボランティアさんたちがどんどん地域に広めていくのです。今、ガザで最も貧しいと言われる中部の難民キャンプで活動しています。資金が不足していて非常に厳しいところではあるのですが、さらにエリアを広げ、できる限りガザの方達に寄り添いたい。「自分たちの力でどう立ち上がっていくか、どう乗り越えていくか」というところに一生懸命寄り添っていきたいなと思っています。

©️JVC

堀)
トランプ大統領の「エルサレム首都化発言」は、 山村さんたちが積み上げてきた支援の現場にどういう影響がありましたか?

山村)
あの発言は1つの小さなきっかけであって、あの発言1つで急にこうなったということではないのですが、「私たちが活動地でやってきたことが壊されてしまう、否定されてしまうという」というニュアンスは現場にいても感じてしまいます。トランプ大統領の発言があってから、「ユダヤ人入植地(*6)」の拡大についても議論になりました。あまり日本ではあまり注目されていませんが、現地や海外のジャーナリストは結構そこを心配していて。エルサレムがイスラエルの首都だと正式に認められてしまうと、イスラエル側が主張する「ユダヤ人入植地」に対する正当性が出てきてしまいます。入植地を増やそうという動きの裏で何が行われているのかを見るのは大事なんじゃないかなと。非常に深刻だと思います。

(*6)イスラエルは1967年の第三次中東戦争以降、ヨルダン川西岸地区や東エルサレムにユダヤ人入植地を建設してきた。占領地への自国民の移住は国際条約で禁止されているが、イスラエルは反論している。

堀)
意識の変化を生みますよね。実感するところってありますか?

山村)
一様ではありませんが、イスラエル人の中には「もともとエルサレムはイスラエルの首都だったのに今更なんで騒いでいるの」と言っている方も少なくありません。「自分たちにとっては当たり前のことではあるが、国際社会に正式にアピールできた、承認されたという形になるのでよかった。でもセキュリティの面で、治安が悪くなるのは心配だ」という認識が多いのは、現地でのイスラエル人へのインタビューを通して感じました。私たちのパートナー団体の人にインタビューをしたのですが、パレスチナ人もインタビューでも「ここは全てパレスチナなのに」という表現をしていて。エルサレムの人は特に自分たちの土地を収奪されているという状況がひどいので、イスラエル人がそういう発言をするのと同様にパレスチナ人も、「もともと私たちが先住民としてこの地にいたんだから、この地はパレスチナなのよ。どこにもイスラエルなんて国はないわ。認めてないわ」という発言を今でもする人は少なくありません。

■「見過ごしている国際社会も大きな責任」 問題の本質に目を向けて

堀)
ぜひ多くの人に知ってほしい現地のことはなんですか?

山村)
たくさんあるんですけど。日本では、「宗教紛争」とか「民族対立」とかそう言った用語が使われることが多いのですが、私たちは「紛争地」という言葉を使うときはカッコ書きにしています。というのも、「紛争」というと対等な力を持った人たち同士が戦っているというイメージを持つ人が多いなと思うのですが、この問題は、世界No.1と言われるアメリカ後ろ盾にした強力な力を持ったイスラエルという国が、何も後ろ盾を持たないパレスチナという国家を占領して「いじめている」という言い方が一番しっくりくるような気がします。対等な関係では全くなくて。それは現地に行かないとわからない人も非常に多くて。「対話をすればいいんじゃないか」とか、「お互い平和に暮らせないのか」ということを日本人の方から非常によく言われるんですけど、実際に現地に来ていただくと、どれだけ力が不均衡かということを認識していただけると思っています。対話をする段階にまだ立てないというのが大きなところ。対話は同じステージにいないとできないので、そこにいかに持っていくかというところで底上げをかなりしていかなければなりません。この問題を見るときに「宗教紛争」とか「民族対立」という目で見てしまうと、問題の本質を見失ってしまうかなと思っています。もともとパレスチナはイスラム教、ユダヤ教徒、キリスト教徒が共存していた歴史もありますので、そうなると「民族」や「宗教」が問題なのかというと、かなりそこはクエスチョンマークがつくところではないかなと。それらが利用されることは確かにあるとは思いますが。

堀)
何が対立の原因でしょうか?

山村)
やはり、片方が抑圧された状態で、経済的にも社会的にも非常に苦しい暮らしを強いられている。そこでどうしていわゆるテロリズムや自爆攻撃が起きるのかという論理ですが、人々を抑圧し続けると「沸騰した鍋に蓋が閉まっているような状態で、いつそれが吹き出してもおかしくない」状態に。そういった状況を生み出していること自体が原因だと思っています。それをサポートしているのは、強国アメリカももちろんですが、見過ごしている日本を含む国際社会も大きな責任はあるので、そういうところを見てほしいなと思っています。

堀)
最後に、日本の方々にメッセージをお願いします。

山村)
日本の皆さんは、エルサレムやガザというと非常に遠いと思われるかもしれませんが、私が中東の地にいながら中東のパレスチナの問題を見ていると、日本の問題と非常に重なるところが多くあるなと感じています。沖縄の基地問題であったり、今の政治のあり方であったり。逆に日本を知ることになっています。また、「より良い市民社会を作るには人々がどうあるべきか」ということを、パレスチナの方から教えてもらっています。どんな抑圧にあったとしても、イスラエル側に検閲されてはいますが、「それでも私たちは発信しなければいけない」という強い意志がある。「屈してはならない」という強いスピリットがパレスチナの人たちにはある。「おかしいことにおかしいときちんと言える市民社会」を持つパレスチナ人からは学ぶところが非常に多いです。ぜひ中東やパレスチナを見ることで、日本をより知る機会にしてほしいなと思います。さらに、パレスチナ人は日本に対してシンパシーを感じています。戦後復興から人々の力だけで経済大国になったという精神性も非常に尊敬していますし、日本に対するイメージもすごく良い。「日本大好き」ということを現場でも言われます。今非常に際どいところもありますが、武力を使わず今まで平和外交を行ってきたことで日本が世界で築いてきたイメージを、ぜひ壊さないようにしてほしいなと思います。中東の地で活動するためには、「日本=武力」というイメージになっていないことが非常に大事になります。パレスチナとつながることで皆さんの生活が豊かになるという側面もあると思っています。

■パレスチナに暮らす父子のメッセージ 「私たちはいつでも妥協する用意があります」

最後に、2017年12月、トランプ大統領の「エルサレム首都宣言」後にJVC現地駐在員がインタビューしたパレスチナに暮らす父子からのメッセージを紹介します。

息子)
私からしてみれば、トランプがエルサレムをイスラエルの首都だと認めたのは、過ちです。彼はその行為の悪影響を理解しておらず、更に危険なことに彼はこのような発表を行うことで、自動的にイスラエル側についたということになります。ですので、この先長期的に和平交渉をした場合、アメリカは妥当な話し合いのパートナー、妥当な仲介者ではありません。尚、イスラエル側についたことになり、すなわち将来の和平交渉でイスラエルはエルサレムに関してそもそも交渉しないと思われます。「もう既に決まった話だ、エルサレムはイスラエルの首都だと認められている」と頑なになるでしょう。ですので、エルサレムはパレスチナ人にとって戦えずに失ってしまったものです。我々が使っている表現は、「ボトムラインまで到達してしまった」。もちろん何の権利もないのです。この土地と縁のない人間が、この土地が誰のものか決める権利はないのです。

父親)
一線を越えるとイスラエルとの交渉の余地がなくなります。エルサレムがイスラエルのものになれば、私たちの国には首都がなくなってしまいます。交渉の余地はありません。トランプは、これまでの交渉ルールを一掃したいのです。

息子)
平和に向けたプロセスの終わりです。オスロ合意があったのに、突然トランプが登場し、最終的な和解に関して勝手に決断を下しました。

(今後どのようなことが必要だと思いますか?)

息子)
アメリカはもう信用できません。どこか他の国、例えば日本や中国、ヨーロッパなど、新しい仲介者を探さねばなりません。もしかすると日本政府がイニシアチブをとるかもしれません。平和的解決への道が閉ざされたのですから、別の道を見つけなければなりません。例えば、一国家解決です。イスラエルが同意するかどうかはわかりませんが、検討する価値はあるでしょう。

父親)
私たちはいつでも妥協する用意があります。平和を得るためなら、私たちは、歴史的なパレスチナの国土、その78%をイスラエルに与えることに同意します。私たちは(残りの)22%の国土に住みます。しかし彼らは土地を欲しがるけれど、私たちに平和はくれません。まるで穴だらけのスイスチーズのように、あちこちに入植していきます。息子が言ったように、私たちは、一国家解決に向かわなければならないでしょう。つまり、皆で同じ土地で暮らすということです。私たちパレスチナ人もイスラエル人も誰もが平等なのですから。小さな領域を細かく切り分けるのは大変です。なので、これが解決策の一つかもしれません。日本をはじめ、世界の人たち、そしてアメリカの人にもお願いします。トランプの発言を無視してください。尊重しないでください。これが私たちからのお願いです。フランスや日本、中国政府に仲介者となってくれるようにお願いしてください。

(息子さん、国際社会と日本の皆さんに向けて付け加えることはありますか?)

息子)
私も父の意見に同意します。国際社会が私たちの声に耳を傾けてくれるよう、私たちを一人ぼっちにしないようにしてください。

(国際社会はまだ十分な行動をとっていない、もっと行動する必要があるというのですか?)

息子)
例えば、アメリカ大使に対して抗議を行い、イスラエルに対する制裁を行うとか、取引をやめるとか、ボイコットを行うとか。発表は間違いだったと認めさせるとか、それが一番だと思います。

(最後に、日本の皆さんに向けて付け加える言葉はありますか?)

父親)
日本の都市や地方で抗議行動をしてほしいです。

息子)
私たちとの連帯を示してほしいです。

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