堀) 松永) ※以下敬称略
よろしくお願いします。
堀)
ちょうど帰国されたばかりなんですよね。
今回帰国するまでどれくらいヨルダンにいらしたんですか。
松永)
前回帰って来たのは11月なので7ヵ月です。
堀)
いま中東の動きも流れが速いというか、トランプさんも訪問して各国の状況も大きく変動が激しい。シリアも含めての変容ぶりは実感します?
松永)
ヨルダンは他の国と比べて安定しています。日本にいる方は中東をひとくくりで危ないところと思われがちですが、難民を受け入れているトルコやレバノンなど比較してヨルダンは圧倒的に治安面では安定します。しかし、生活の変化、物価上昇やシリア人が目に見えて増えてきたなどは実感しています。私はヨルダンに住み始めたのが7年前、2011年でちょうど内戦が始まったときです。まさに内線を隣から見てきていますが、レバノンやトルコで事件があったのと比べると安定しています。
堀)
先日、シリアでの化学兵器使用の疑いで米軍が出動して人工ミサイルを撃ち込むこともありました。ああいう混乱もヨルダンでご覧になりましたか?
松永)
仕事でシリア人の家庭訪問する時、ずっとテレビが付けてあり事件などのニュースが流れます。でも国境がほとんど開かなくなったここ2年ほど、病人が運ばれてくるなど直接的には聞かなくなりました。
堀)
隣国でもそうなんですね。先日知り合いのジャーナリストと対談しましたが、シリア国内でも戦禍が激しい地域や安定している地域など全然違うそうですね。
松永)
私も先日シリアに行った方から話を聞き写真を見せてもらいました。町の半分は普通で、もう半分は壊滅状態。情報も同じだと思います。安全に暮らしている人は情報に触れてはいますがあまり関心がなかったり操作されていたり。でも危険な地域・場所に住む人たちは詳細に情報を得ていると聞いたことがあります。
長引く避難生活
堀) KnKの皆さんが向き合っているシリアの方々は戦禍を逃れてきた方々ですよね。子どもたちを含めてどういう避難生活をしているんでしょうか。 松永) ヨルダンの難民キャンプにはシリア南部から来た人たちが多く住んでいます。ヨルダンに逃げてきた人たちはシリアに戻りたい人たちです。ヨーロッパに逃げていく人は、きっと「シリアはもういい、新しい生活を始めよう」という人たちが圧倒的に多いという統計があるという話を聞きました。難民キャンプにいる人たちもまたシリアに帰るために一時的な生活をしている、最初はそういう気持ちでいたんだと思います。私がキャンプに往くようになった2013年頃には誰だれがシリアに帰ったなどの話も多く聞きました。ただ時間が経つにつれてキャンプで仕事をどうやって見つけようとか。ある日KnKのシリア人スタッフがバラの苗を抱えてきたので、どうするの?と聞いたら、「シリアで住んでいたところはたくさんバラがあったけど、キャンプの家は殺風景だから植えようかなと思って買った」と。ここでいかに快適に暮らそうと、癒しも含めて自分の住環境を作っていこうという風にシフトしていっているんだなと感じました。 [caption id="attachment_1192" align="aligncenter" width="800"]
シリアから逃れてきた子どもたち
堀) 子どもたちの様子はどうですか。 松永) 比較対象がある親に比べて、多くの子どもたちにとっては初めてのことが多いので、まだ適応性があると思います。KnKが授業を始めた2013年当時は、難民キャンプ内の学校も数が限られていました。たくさんトラウマを抱えて逃げてきた子どもたちが学校に通い始めたけど、シリアで学校に通えない時期があり、本当は5年生だけど学力が2年、3年しかなく授業について行けずにやめてしまう。言葉や発音が少し違うなどで馴染めずやめる子もいる。当時は学校数も少なく、キャンプが広大なため遠すぎて家から通えない。登録はしているけれどそういう理由で学校に行かない子どもがたくさんいました。そこで、より楽しい授業時間を設けて子どもたちをひきつけていく授業を始めました。当時はトラウマを抱えた子どもたちが多かったので、演劇をしたら、ダダダダだと人を殺したりする動作をしたり…

子どもたちの現在
堀) 子どもたちと接していて、初期の頃はトラウマとどう向き合うかというところから始めて、だんだん長期化していく中でそういう(シリアをけん引する)人材に育ってもらえればいいと思っているのですよね。当の子どもたちはどう感じているのでしょうか。 松永) 3年前KnKの職員として子どもたちを見た時は、精神的に不安定な子どもたちが結構いました。ただ、4、5年経った今は、学校生活を送るという環境に変わりつつあります。ただ、公立学校は常に楽しいところでもありません。 堀) 遊びに行く場ではないですよね。ある意味鍛錬の場ですから。 松永) 全部が楽しい環境ではない中で、KnKの授業に来る子どもたちは明らかに楽しさ満載でイキイキしているのは、今も前も変わらないという印象です。 堀) どんな授業ですか。 このテーブルにも見るからに楽しそうな物がたくさんありますね。 すごい!ギターの形をした絵本ですね。何が書いてあるのでしょう。 松永) 内容は私もわかりませんが、これは作文の授業で作ったものです。 堀) これは、子どもが描いた絵ですね。少女漫画風。



教育支援の成果と意義
堀) こういうことをやり続けることで、成果と意義はどのように感じているのですか? 松永) 成果ですが、子どものドロップアウト率は減ってきているんですね。それにはいろいろな要因があって、うちの事業があるというのもあるのですが、落ち着いてきて学校がより近いところにできたということで、行き来がしやすいアクセスの問題が解決されたというのもあります。しかし、肌身に感じているのは、子どもたちがKnKの授業があるから学校にやってくる、とても楽しみにしているというのは実感しています。学校生活の中にはKnKの授業が完全に定着している。教育というのはルーティーンが大切だと思います。毎日欠かさず、週に1、2日KnKの授業があるという習慣化していることが大切で、うちの授業は定着化しているので、子どもたちの心の安定にも繋がっていると思っています。彼らも楽しんで来てくれているというのは感じます。継続していることが、子どもたちにとっても手前味噌ですがいいことなんだろうなと思います。 堀) 親御さんたちの様子はいかがですか? 松永) 評価はしてくださっていると思いますが、親は学校に行っていると思っているのでKnKの授業を受けに行っているということはどこまでご存知かわかりません。ですが、授業の中で楽しいものがあるぞというのは伝わっていると思います。オープンデーをすると親御さんも見にきてくれます。 堀) こうした授業が継続していくことが難民の子どもたちの(心の)安定に繋がっていくということですね。しかし今直面している課題は自前で資金を集めなくては事業が継続できないという局面ですよね。どうしてそうなってしまったのでしょうか。 松永) 避難生活も4、5年続いていて、緊急的な状況にはなっていない。子どもたちの様子も、キャンプの様子もどんどんどんどん良くも悪くも安定化していく中で、今いただいているお金は緊急支援に対してのお金なのですが、そういうフェイズではなくなっているという理由から、この5月末で公的な資金を使った事業が一旦終了したという訳なんです。 堀) ずーっとそこに難民生活として定着というのは国際社会として認めるというわけにもいきませんよね。ある意味、戻れるための移行期、シフトチェンジがどこかで必要だと思いますが、現場で携わっているお一人としては、実は今はそういう段階ではまだないということですか? 松永) やはり緊急の支援はタイプがあると思うんです。インフラだったり医療だったり。それが安定してきたらもっとフォーカスされるべきは教育や保健といった継続して長いスパンで考えることが必要だと思っています。ですけれども実際は・・・というジレンマがあります。 堀) もし事業が継続できなければどんなことが起きてしまうのか。どんな懸念を抱いているのですか? 松永) KnKの事業がなくなったからといって、いきなり子どもたちが学校に行かなくなるというわけではないのでしょうけど、ただ、子どもたちが今までルーティーンになっているものが突然なくなってしまうということは、私が子どもの時に好きだった先生がいきなりいなくなってしまった時に「やっぱりつまらないな学校」と思ってしまったことが実際にあったんですね、皆さんもそれぞれあると思うのですが、それに近いものがあると思います。それくらいの存在になっていると思うんです。あとは、似たような授業を公立学校外でやっている団体が引き継いでもらうのもいいのですが、私たちは公教育の中でやってきた上に、少し年代が上の子どもたちと向き合ってきました。ユースたちの年代はやはりちょっと違うじゃないですか。子どもとはいっても。難しい年代ですよね。KnKの授業用に雇用している先生の中には、保健の先生のような方もいるのですが、その先生に相談に来る子どももいます。 堀) どんな相談を受けるのですか? 松永) プライベートなこと、といってなかなか教えてはもらえないのですが、女性の先生だと女の子の問題についてだったり、あと仕事のことだったり、そういう存在の人たちがいなくなった時に彼らはどういう人たちを頼っていくことになるのかなと思ってしまいます。
いま必要な支援とは?
堀) 5月で、全ての学期が終了ということですね。日本でいうと3学期が終わると。次の年次が始まるのが9月。それまでの間で、夏季の課外授業を実施したいと。それをやる意義というのはどこにあるのでしょうか? 松永) 子どもたちは夏休みが2ヵ月半から3ヵ月くらいあります。砂漠で周りは何もないところ。だから授業がないと、ぼんやりしてしまう、お家で寝ているということもあり、生活リズムも崩れてしまう。日本でも同じですが。キャンプに関していうと、外に遊びに行っても暑いし、キャンプの外に出るのには許可が必要で、それを取るのにしても苦労するし、きちんとした目的が必要になります。例えば、ヨルダンの海に行くか、となっても当然キャンプを出る許可を得るのは大変で、そうすると、家の中で電気がなくてテレビも見られないから、ダラダラ過ごすのが3ヵ月続いてしまうかもしれない状況です。公立学校の中で、課外授業があって彼らの好奇心を探求できる環境を作ってあげられるのではと。あと、彼らが普段通っている学校で課外授業をするので、そのまま新学期が始まるのにうまく持っていけるという効果があると思っています。 [caption id="attachment_1201" align="aligncenter" width="800"]
シリア人、中東の人々にとっての「日本」
堀) こういう情報を日本のみんなにもっともっと知ってもらいたいなと思います。シリアの方とか、日本のことについてはお話されたりはしますか?日本ってこうだよね!とか。 松永) そういってくださる方もいますが、これは万国共通かもしれませんが、アニメが好きな人は日本人を見るとすごいですね。今はキャンプだけど、シリアにいる時にはアニメを見ていたんだという人も結構います。「ナルト」とか「ワンピース」とかですね。実は読んだことがなくて話についていけなかったりするんですけど。学のある方は、「桜っていうのが日本にあるけどシリアにも桜によく似たアーモンドの花があって綺麗なんだよ」という方もいました。 堀) 先日、パレスチナのガザに行ってきたのですが、その中でパレスチナ人の方が胸に手を当てながら、日本はアメリカに原爆を落とされ焼け野原になったけれど、そこから復活し、発展したと。しかもその発展した経済力を世界の不均衡のために投じているというのは本当に敬服する、という言葉をかけてもらいました。それを聞いた時に、パレスチナから日本に対して、ここまで話をしてもらえるのに、逆に日本からパレスチナってこうだよね、とみんなが言えるような状況であるかというと、とんでもない片思いだなと思ったんです。今、幸いにして私たちの国で安定して過ごしている立場で余力のある人は、同じ中東といってもヨルダンはこうですね、シリアはこうですね、イスラエルはこうですね、と細く説明できるくらい知っておくということは大切なのではないかと思うようになりました。KnKがゲートになってシリア難民のことを知ることができるので、事業を続けて欲しいなと思います。 松永) ちょっとでもきっかけがあると興味を持てるのかなと。 堀) 子どもたちが書いたこの冊子を持って学校などを回るだけでも全然違いますよね。ぜひシンポジウムなどもご一緒したいです。 松永) 本当に遠い国ですよね、意識としては。日本に帰ってくるたびに思います。そう思いませんか? 堀) やれハワイ、やれヨーロッパ、やれアメリカ、知っている国によりがちですよね。もっと知るべきですよね。 松永) 本当にそう思います。これからもよろしくお願いします。 [caption id="attachment_1202" align="aligncenter" width="640"]