10年以上現地で南スーダンを見続けたNGO職員

堀)
昨年2月に発覚した自衛隊の日報問題。5月にアフリカ・南スーダンのPKOから自衛隊が撤退し、7月には当時の稲田防衛大臣をはじめ、当時の防衛事務次官と陸上幕僚長が辞任。ここから一気に南スーダンの情勢に関する報道は下火になりました。しかし、自衛隊が徹底した後も内戦による緊張状態と難民の問題は解決されていません。果たして今の南スーダンはどのような様子なのか。現地で継続して支援活動を続けている日本のNGO、日本国際ボランティアセンター(JVC)で南スーダン事業を担当されている人道支援・平和構築グループマネージャーの今井高樹さんにお話を伺います。今井さん、よろしくお願いします。

今井)
よろしくお願いします。

堀)
今井さんにはこれまでも、現地の内戦が深刻化して緊張が高まる最中にお話を伺ってきました。自衛隊派遣に伴い、南スーダンの内戦が日本国内でも政治課題として論じられるようになった際、「衝突か、戦闘か、といった言葉遊びはやめてほしい、現場の実態を知って欲しい」とお話しをされていました。私も記事にしたり、今井さんと一緒にシンポジウムを開いたりするなどして南スーダンでの緊張状態を伝えてきました。あらためて現状について伺います。

堀)
今井さんご自身はJVCのスーダン事業所に駐在して支援を長期に渡って続けて来られましたが、活動を始めて何年になりますか?

今井)
2007年に南スーダン(当時は独立前だったため、スーダン南部自治領)のジュバに着任して以降、10年以上現地に駐在してきました。2017年から東京に戻って、必要な時に現地に行くという形になっています。

堀)
つい最近も現地に滞在されていましたよね。

今井)
はい。2017年11月から12月にかけて現地に行っておりました。

堀)
具体的にはどのような支援活動をされているのでしょうか。

今井)
2016年に「戦闘か?衝突か?」と問題になった大きな戦闘が行われた後は、2016年9月から現地で活動を行なっていました。5回ほど短期で現地に出張し、首都であるジュバ近郊の地域で食糧支援を始め、マラリア対策として必要な「かや」、調理用食器、鍋、石鹸などの生活用品、医薬品の支援を行なっています。直近では、子どもたちが学校に行けるよう学用品、ノートや鉛筆の支援を行いました。

「いつ自分が殺されるかわからない」400万人が未だに避難生活

堀)
現地では、いわゆる内戦状態が続いているんですよね。

今井)
2013年の12月からずっと内戦が続いています。一旦2015年に和平合意になったのですが、2016年に再び内戦状態になっています。ただ、最近、2017年12月に停戦合意のようなものが結ばれ、クリスマスから新年にかけては比較的静かな年越しを迎えたようです。

堀)
内戦が激化していた頃は住民に対する虐殺とも言える行為が行われていましたよね。

今井)
私が直接聞いた避難民の話があります。その方はジュバから100キロ程離れた村から避難してきた方なのですが、村の中では子ども達がまるで鶏を殺すようにどんどん殺されていたという話でした。武装した政府軍や民兵、反政府勢力、武装勢力などが村々をを襲撃し、子どもやお年寄りを無差別に殺害し、家には火をつけ、女性はレイプし殺害するという行為が行われていました。

堀)
そういう方々が家を追われ、地域を追われ、難民として避難生活を余儀なくされてきたわけですよね。食料も足りなければ、医薬品も不足、着るものなども入手するのに大変だった、そういう部分を今井さんたち、JVCが現地でサポートを続けてきたわけですね。実際には何故そこまで対立が深まってしまったのでしょうか?政府軍、反政府組織、民兵、武装勢力、それぞれにどのような利害関係の不一致があって対立していったのか背景を教えてください。

今井)
新聞など一般の報道では「民族対立」と言われていますが、実際に現地の友人などから聞いた話では、「民族対立というのは紛争の原因というよりも結果だ」と言っていました。私はこの対立は、「政府の中のグループ同士の利権争い」だと思います。この国ではもともと石油が取れますし、援助も含めこの国には様々なお金が国に入ってきます。それらを巡って、政治家同士が利権の取り合いをし、いくつかのグループに分かれて政治闘争をしてきたのですが、そのグループ同士の対立が深まり衝突をしてしまったと。そのグループというのは比較的表面上民族別に分かれていました。しかし、必ずしも同じ民族同士というわけでもないんです。別のグループにその民族出身者が入っていたりと入り組んだ状況でもあったのですが、大まかには民族別に分かれていて、戦闘が始まると民族同士の対立感情がますますエスカレートしていくという結果になり、単に民族が違うからと襲撃して殺し合うという事態も起きたりしたんです。

堀)
首都のジュバやその近郊では高い緊張が続く中、今井さんは現地での支援活動にも入られていましたよね。

今井)
私は安全上のこともあって首都ジュバしかいないのですが、ジュバの中でも人々が非常に恐れていましたよね。政府の中でちょっとした内部抗争があって事件が起きると、住民の方で逃げられる方は逃げたり、街中では扉が閉められ人っ子一人いなくなったりしました。民族虐殺のような事態になって、いつ自分が殺されるかわからないという不安を抱えていますね。

堀)
今井さんご自身もヒヤリとする経験はありましたか?

今井)
虐殺が目の前で行われることはありませんでしたが、私が首都ジュバに滞在している期間も毎日のように強盗団による被害がありましたし、稀に銃声を聞くこともありました。現地の人と一緒に支援活動をやっていますが、その方の家に盗賊団がきたとか、家の近くの路地で激しい銃撃があったという話はよくしていますよね。

堀)
現状は停戦の合意がなされて落ち着いている状況だと今井さんが仰っていましたが、とはいっても支援も必要なくなったという訳ではありませんよね。

今井)
ある程度戦闘が収まったといっても、いつまた起こるかは分かりませんし、避難しているみなさんは家に帰れないんですよね。今、国民の3人に1人、1200万人の人口の国でその内の400万人程が国内や国外で避難生活を続けています。その方々の数はほとんど変わっていない、つまり家に帰れていないんですよね。もし自分たちが家に戻ったらまた襲撃されるかもしれないという不安もあります。支援が必要な状況は全く変わっていないですね。

堀)
家に戻ったら襲撃されるかもしれないというのは、停戦合意が政府と反政府軍の間でなされていても起きうるということですか?

今井)
今は、武装勢力が本当にたくさんあります。元々は主に2つのグループに別れて対立構造が始まったのですが、その後、政府軍の中から寝返って反政府軍の側に転じた軍の司令官を中心としたグループができるなど、反政府軍の中でもいくつかに分かれています。あるいは住民が襲撃された時に自分たちで自警団のようなものを作って、その自警団が武装勢力のようになっているケースもあります。本当に相当な数、誰も把握ができていないほど数は増えています。

堀)
秩序が入り乱れている中で、何とか均衡を保っているという状況なのでしょうか。

今井)
首都ジュバでは政府軍が掌握しているのである程度落ち着いています。実際にジュバに行ってみると、ごく普通に市場に買い物に人々が来ていて、子どもたちも遊んでいるような状況もあります。しかし、国全体で見ると治安が保たれていないという状況が数多くあります。

堀)
内戦の中の日常ですね。

自衛隊派遣は「PKO参加5原則」を満たしていたのか

堀)
自衛隊派遣の大前提は、停戦状態にあるとか秩序が保たれているなど、PKO派遣のための5つの原則を満たしていることでしたよね。後に明らかになったのは銃弾が飛んでくるような状況もあったと。そうしたことを記している日報の存在の有無や公文書として扱うか否かが大きな問題になったわけですが、現地への派遣は適切だったのかなど、今井さんはどのように考えていますか?

※PKO参加5原則
1)紛争当事者の間で停戦合意が成立していること
2)国連平和維持隊が活動する地域の属する国及び紛争当事者が当該国連平和維持隊の活動及び当該平和維持隊への我が国の参加に同意していること
3)当該国連平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること
4)上記の原則のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は撤収することができること
5)武器の使用は、要員の生命等の防護のための必要最小限のものを基本。受入れ同意が安定的に維持されていることが確認されている場合、いわゆる安全確保業務及びいわゆる駆け付け警護の実施に当たり、自己保存型及び武器等防護を超える武器使用が可能。

今井)
2013年以降は国が内戦状態になって、現に首都ジュバでも大きな戦闘が2回、2013年12月と2017年に起きていますので、とてもPKOの5原則を満たしている状況ではなかったと思います。現に、「衝突か、戦闘か」と問題になった時ですが、今私たちが活動している避難民キャンプというのは自衛隊の宿営地のあった場所から1キロ程のすぐ側なんです。避難民キャンプの住民の方々に話を聞くと、その時にはそのキャンプ周辺、一帯ではものすごい銃撃というか砲撃が繰り広げられて。その方達も避難民キャンプを離れて逃げていって、戻ってきたら略奪されていたと言います。そういった状況だったので、ジュバの中というのはとても平穏とは言えない戦闘状態だったと言えますね。

堀)
それだけに、そうした現地の情報がしっかり入手されて、国民にも知らされるべきだったということでしょうか。

今井)
そうですね。南スーダンは2013年以降、私どものような人道支援団体も含めて、研究を続けているような学者の方も含めて入りづらいんですよ。日本政府が渡航規制をかけて、なるべく入れないようにしていて、こうした生の情報が限られているんですね。ジャーナリストの方も報道各社も自粛していたということもありました。その背景には何らかの政府からの圧力があったのかなど、そうしたことは私はわかりませんが、現地からの正しい情報が日本の皆さんに届いていない状況にはなっていましたね。

「軍隊」ではなく「文民」ができる支援の形

堀)
子どもたちの教育環境や居住環境もそうですし、具体的にはどのようなサポートが今必要なのでしょうか。

今井)
南スーダン全体で言えば、食糧の問題があり、国連や赤十字、国際NGOも活動をしています。その他、医療もそうですし、例えばテントのような住居など、様々なものが必要です。そうした中、子どもたちの教育支援が後回しになってしまいます。どうしても食べる方が先に来るので、私たちはジュバで活動する中で、最初は食糧支援から始めたのですが、今は子どもの教育に軸を移し避難民キャンプの子どもたちの学用品の支援を初めています。ノートやペンを買わないと学校に行っても勉強ができない、もしくはそうしたものを持っていないから学校に行きたくない、そういう子が多いので学用品の支援をやっています。

堀)
自衛隊の撤退以降は現地の状況に関する報道も下火になっていきましたよね。支援活動を続ける一人としてはどんな思いでその状況を見ていますか?

今井)
残念でもあり、ある意味日本の報道のあり方が恥ずかしいというのはありますよね。国際ニュースでは南スーダンの現状がもっと伝えられていますから。国連も言っていますが、今の国際情勢の中ではシリア・イエメンと並んで最も深刻な人道危機と言われており、報道もされています。日本の国内を見ると、南スーダンの報道がなくなってしまう。もともと日本の報道は南スーダンの状況を伝えるということよりも、稲田防衛大臣の動向や国会の論戦が中心だった訳ですので、内向きなところで国民の視線も作られてしまったと思います。現地目線で状況を知ってほしいという思いもありますし、報道も続けてほしいと思いますよね。

堀)
アフリカ地域といえば中国の影響が色濃く現れているなど日本の外交にとっても重要な現場だと思うのですが、日本政府は南スーダンの問題には今後どのように関わるべきだと思いますか?

今井)
日本は自衛隊のような「軍隊」ではなくて、「文民」と言いますが、軍人ではない様々な専門家、法律や人権、教育の専門家を送ってこの国が安定するようなことに貢献してほしいですよね。日本政府は今まで日本人を入れないようにする方向でしたが、これからはそうした平和づくりをする人々の派遣をするべきだと思います。

堀)
確かに、「PKO=自衛隊派遣」という印象が強いですが、本来のPKO活動の中には様々な多岐にわたる活動がある訳ですから今井さんのいう文民の派遣は一つの有り様ですよね。引き続き現地の状況など教えてください。ありがとうございました。

【1/17 JVC 南スーダン現地出張報告会@東京】
「報道されなくなった南スーダンの今 ~住む土地を追われた人々~」

日本では南スーダンがニュースで取り上げられることは少なくなりました。「今どうなっているんですか?」と聞かれることもあるのですが、南スーダンは今人口の約 1/3 が避難民になっていると言われ、「世界で最も急速に深刻化する難民危機」と呼ばれるほど大変厳しい状況にあります。

今回、2017年11 月末~ 12 月に南スーダン事業担当・今井が現地入りし、物資の支援や今後の活動のためのヒアリングなどを行ってきました。なかなか伝えられることのない現地の様子と、今必要とされる支援についてお伝えいたします。

■日時:2018年1月17日 (水) 19:00~20:30
■会場:デジタル・ナレッジ ラーニングカフェ
(※JVC 東京事務所があるビルの8F になります。JVC は6F です
■参加費:500 円(要事前申し込み、JVC 会員300 円)

http://bit.ly/2BSEpWh

特集記事