■社会問題をパッケージ化して伝えるということ

田中 まだ手つかずの課題なんですよね。社会の中で一部の方だけが知っているという課題で。国も、今ようやく(対策を)スタートし初めているけれど、そういう意味でいうと、いつ完璧なところまでいくのかわからないという段階にあって。例えば、病児保育をスタートなさった時も、おそらく眠っていた、まだ社会化されていない課題だったと思うんですよね。現場で要望とともに、応急処置的な動きをしながら、さらに国政レベルに働きかけをなさって、課題を社会全体で共有されて言ったというプロセスがとてもすごいなという風に思って。外国にルーツを持つお子さんたちの課題についても、例えば、不登校の問題や、発達障害や、あるいは引きこもりの課題がそうであったように、今後社会の中で共有をされて行かざるを得ない課題だと思っていて。子ども達の時間がとても限られているので、少しずつ進んでいるこのスピードをクッと早めたいっていう思いがとてもあって。あっという間に大きくなって社会に出てしまって、次戻ってきた時には「先生、妊娠しちゃった」って10代の女の子たちがいうような社会を1日でも早く変えたいと思っていて。そのために、まず優先して取り組むことはなんであるかというのを是非伺いたいなと思って。 駒崎 すごく難しい、切実な問題ですね。もし僕だったら、イシューレイジングをするでしょうね。この課題はおそらくあまり世の中に知られていないが故に、リソースが集まっていないし、インフラもない。「ここに課題があるんだよ」ということを気づいてもらわないといけないし、気づけば割と役所も政治家もなんとかしようかとなっていくわけですよね。そうなった時に、この問題は何問題なんですかね。問題を定義したいなと思って。僕は、子どもが熱を出した時に預かってくれない、それで親が失業するみたいな話を「病児保育問題」っていうことでパッケージ化して、世の中に知らせて。「病児、熱を出した子どもは預かってくれないんだ」みたいな感じから入っていったわけなんですけど。これはどういう問題なんですかね。外国人の子どもたちが学ぶ場がないと言うこと? 田中 基本的には、「言語難民問題」と言うのがおそらく課題を一番包摂していて。学ぶ場がない、教えられる人がいないが故に、社会の中でも、子ども時代も含めて、個人レベルでも教育レベルでも就労レベルでも、非常に大きなハンディキャップを背負っていってしまう。そして10代の妊娠ですとか、子育て期間中の貧困によって、日本社会の中で貧困を再生産してしまう。 駒崎 そっか、「言語難民」って言う言葉で包摂すればいいんですね。つまり「日本には実は難民はいるんだ」と。難民というのは、遠いシリアや、諸外国のことだと思っているので、普通の日本人の感覚としては。「いや、そうじゃないんだよ、言語難民っているんだよ、あなたの街にもいるんですよ」という切り口から攻めていくっていうのはすごくいいですね。そこで、じゃあどうするっていった時に、何があればこの子ども達は救えるんですというソリューションとしては、どんなものがありますか?いくつか、そのためにはこうすればいいっていうのがあると、「じゃあやろうよ」ということになると思うので。

■ソリューション1:公立小中学校での対応の加速 日本語学級の拡充を

田中 ソリューション自体は、公立小中学校のそうした子ども達への対応を加速させていくこと。それをバックアップするための外部のセンターのような存在、あるいは、学校側が受け皿になれない時に、私たちの活動のようにしっかり専門的な支援を行える場が、何万人かに一人の割合であるというようなことが現状かなと思いますね。 駒崎 例えば障害の場合だと割とわかりやすくて、特別支援学級を充実しようとか、専門性のある先生が配備されている学級、もしくは重度になると特別支援学校になるんですけど。外国籍の場合そういうのがないわけで、必ず普通級の中に入るっていう形になるじゃないですか。そうすると、普通級は、多人数かつ先生が専門性もないし、しかも疲弊しているという状況で、多分座っているだけになるじゃないですか。そんな時に、こういうのがあればこっちも大丈夫というソリューションがあればなんとなく成功イメージが湧いてくると思うんですけど、それはなんですかね。 田中 学校の中でいうと、日本語学級。 駒崎 日本語学級っていうのがあるんですね。 田中 自治体によって設置基準違うんですけど、設置がなされているところが、外国人が多く住んでいる地域ではあって。例えば、市内の10校のうちの1校に設置をされていて、そこに通っていくというようなスタイル。 駒崎 そういうのがあるとなんかイメージ湧きますね。 田中 そういったものをより拡充していくというのは必要かなと思いますね。墨田区ですと、墨田国際センターのようなものを墨田区が設置をして、墨田区の一箇所にそういうお子さんたちを集めている。初期の日本語教育をして、それぞれの学校で元気に頑張れるようにする。これ、横浜でもやっているんですけど。非常に先駆的な自治体が出始めている。 駒崎 そのセンターっていうのは、日本語学級の別名のことですか? 田中 そうですね、日本語の指導、初期指導を公設でする。教育委員会さん設置でする。あとは学習の支援をするというような、それこそ集中校というような形で、そこに集まってきてもらう形でやっている。でもそれは、子どもの数が多いから成立しているという側面もあって。外国人がその地域に1人2人しかいないってなった時にどうするのかっていうのも一方でまた、大きな課題なんですよね。

■ソリューション2:加配教員の派遣 5人の壁と「溶ける」という課題も

駒崎 豊島区みたいなところは、センター的な日本語学級を作る、日本語学級のある校を指定してすると。(支援が必要な子どもが)バラついているところに関しては、補助教員派遣みたいな制度を作って、マンツーマンでいてくれて一緒に支援していくみたいな。一応、障害の分野ではあるらしくて。それを援用するみたいな形でできないかなと思ったんですけど。  田中 そうですね。そういう外国人の少ない地域で、例えば、日本語の先生がそういう子たちがいる学校をぐるぐる回って指導をするというスタイルはもう行われている地域があるんですけれども。そうすると、ちょっと厳しいなと思っているのは、支援時間数がとても少なくなっちゃうんですよね。 駒崎 ぐるぐる回るんじゃなくて、その教室にいて、その先生は主にその子(担当)だけど、そうじゃない他の子たちも、ちょっと遅れちゃった子たちも、適宜支援してあげれば。担任の先生としても助かるし、サポートしてもらえて。その子だけにいるというよりはみんなの先生になるから、溶け込めるんじゃないかなと思ったんですけどね。 田中 そうですね。そういう方が、日本人のお子さんを含めてみんなのために活躍できるのってなるのがすごくベストだなと思ってる。だいたい「加配」をそういう場合に学校が要請するんですけど。ただ「加配教員」って、学校さんにそういう子が5人以上いないとつかないんですよね。 駒崎 おっと、5人以上いないとだめ。5人の壁。 田中 だから、4人のところは「加配」が入らない。「加配」で呼ばれる教員もコントロールできないので、保健体育の先生が「加配」で呼ばれてくるということがあるんですね。 駒崎 保健体育の先生が加配で呼ばれてくる? 田中 はい、それは、外国人の子どものために「加配教員」を増やしてるはずなのに、学校は普段の人手不足をそれで解消しようとしている。学校の先生の用語で「溶ける」というらしいんですけど。「加配教員」が溶けるみたいな。  駒崎 面白いですね、その表現。あれ?いなくなっちゃってるよ?みたいな。 田中 そうそう、なんのために来たの、みたいな。そういうような現象が起きていて。5人以上いたら「加配」は来るけれども、その加配の先生の質は担保されていない。5人未満のところはそもそも加配すら手配できない。

■ソリューション3:専門的な言語教育を提供するYSCのような場所の増設

駒崎 YSCさんみたいなところが、やっぱりそれなりに全国にあったほうが。将来的にはもちろん全ての学校で個別でできたらいいんですけど、そのプロセスにおいてはやっぱり、専門的があったりとか、センター的にそういうところがあるということが重要かなと思うんですけど。今YSCさんみたいなことをやられているところは全国にどのくらいあるんですか? 田中 同じ規模でおそらく活動している、つまり、有給職員で、一定数の子ども達を専門的にサポートしているという風になると、対象が限定されていれば都内に他に2軒。あと、先進地域が愛知県ですとか静岡県にあるので。定住外国人の子どもの就学支援事業の文科省の委託を取っていたのが、最終的には全国で21団体くらい。そのくらいかなという風に思いますね。後はボランティアベースでの動きが大きいので、活動範囲が限定されていたりですとか。 駒崎 100万人を超える(外国にルーツを持つ)子ども達がいるわけで。そのうち、課題がある子ども達の率というのも高いんでしょうから、21団体というと、おおよそカバーしきれていないような気がするんですが。そこに対して国は、YSCみたいなところを育てていこうなのか、YSC的な機能を夜間中学に付与してこうなのか。いずれにせよちゃんとこうやらないと、どう考えてもこれから対応できないしインフラがないような気がするんですけど。 田中 そうですね。国としてはおそらく、小中学校、夜間中学校、定時制高校あたりが、受け皿になるべきだと思っていると思うんですね。それが、地域的に支援の質に格差があったとしても、徐々に受け皿として整備していこうというような方向性が強いですね。外部の民間を育ててセンター化しようという発想は、まだ出ていないと思いますね。 地域によっても全然違うし、その21団体の中でも継続して今もやっているかというのは団体によって温度差もある。あと、限定した対象ではなくて、YSCのようにお母さんから、地域コミュニティで生きていくのに言語が必要な若者世代までカバーしている。そして、日本語を多言語で教えられるスキルを持った、教職の資格を持った人もいるし、経験を持った人もいるし。ここまで充実している団体っていうのはあまりないのが現状で。オンラインで教育を始めるという取り組みを、それこそクラウドファンディングで資金を集めて去年スタートさせたんです。でもクラウドファンディングでお金を集めて一団体がするっていうのは、裏返しでいうと、公的資金がそこに入っていないということ。やっぱりまだまだ足りていないんじゃないかなというのを感じるんですよね。 駒崎 YSCさんみたいな学校を東京23区内の、例えば台東区とか、豊島区も外国人が多いんですけど。豊島区は、12人の保育園やった時に、6人が外国人で。これは辛い、しかも言語バラバラという辛い時期あったんですけど。例えば、豊島区にも欲しいと。年間いくらあればYSCさんみたいな学校が作れるんですか?  田中 うちはですね、今、学校さんや支援機関と外国人の親御さん、あるいはお子さんの課題を調整するコーディネータというのが1日当たり約2名配置されていて、資格を持った日本語教師が2名、学習支援をするスタッフが2名いて、100人受け入れて。十分ではないけれど維持できるというこのレベルで、1500万円くらいですかね。 駒崎 1500万で、それだけのことができる?だったら全国でやりましょうよ。だって、1500万だったら、100校作っても15億円でしょ? 田中 そうなんですよ。非常に投資し甲斐があるというか。 駒崎 それ、すごく投資対効果高いと思いますけどね。 田中 そうですね。そこがやっぱりセンターになって、専門知識を波及させていくという役割を担えれば、だいぶ違うかなと思いますけどね。

■内なるグローバル化を進めるための、居場所づくりを

これだけグローバル化しましょうと言っていたりするのに、内なるグローバル化が全然進んでできていない。(外国人を)呼ぶだけ呼んでその後の受け皿がないのは無責任ですよね。 駒崎 無責任甚だしいですよね。移民で、実習生という名の奴隷みたいな扱いして。それで「いや、移民じゃない、研修生ですから」みたいな感じで農業の現場で事実上労働力として使っているにも関わらず、尊厳や権利というものを与えずに放置していて。人として、人間としての共感とか尊重とかないままにグローバル化とか、寝言ですよね。 YSCの事業を見ていていいなと思ったのは、ただその言語を教えてあげるのではなくて、基本的に私たちの生活の習慣とか、歴史までさかのぼって、なぜこういう文化になったのかなというのをセットで伝えているんですよね。ただ言語能力が上がるのではなく、日本で暮らすには空気感として知っときたいよねというところも合わせて教育しているのも大事だなと思って。  駒崎 あと、すごい良かったのが、「友達と会える」とビデオで言っていて。「これすげー大事だな」と思って。一人きりで異国に来て、しかもみんな別に優しいわけでもない人たちがいたら、やっぱり仲間は必要ですよね。 そこで孤立したら、不満も募っていくし。ただ教えるだけじゃなく、コミュニティを作ることも、すごく重要ですよね。

■情報やノウハウを広く共有しあって、相互に高め合いより良い取り組みへ

駒崎 これはすごい勉強になりました。正直、「言語難民問題」は知らなかったです。絶対これ、99%の日本人が知らないですよね、この課題。これ知らせたほうがいいと思います。言語難民がいます、それですごく困っているし、端的にかわいそう。人権的にもありえないし、将来的に放置すると、犯罪に手を染めてしまうこともある。若年妊娠になるかもしれないし。ほっとくとより社会的コストかかるよね、と。だから早期のうちになんとかすべきだよね、と。ソリューションが主に3つあって。一つが日本語学級ちゃんと作ろうねと。あとは、補助教員をきちんと派遣しようねと。あとは、専門のYSCみたいなセンターを作っていこうねと。この主に3つですねと。しかし、日本語学級自体が少ないし、日本語学級っていうのは、基本的にはある程度外国人がいる地域じゃないとできないと。補助教員を派遣しようにも5人の壁があって、5人以上(支援対象の)子どもがいないと派遣すらできない。派遣しても学校が人手不足だから溶けちゃうし。この補助教員派遣の仕組みをしっかりしようよと。そして最後、YSCみたいなセンターも数が全然少ないし、多く見積もって20団体しかない。本当にリジッドに考えると3つか4つのレベルになっちゃうと。でもこのセンターがなんと1500万円でできるんですよと、そういう話ですよね。だから、わずかな教育の予算で解決できるのにしてないじゃんか、っていうストーリーでイシューレイジングしていけば、絶対、世論を味方にできる気がしますよね。多くの人に知ってもらって、しっかりリソースを集めて来て、この課題を解決するということを、少なくともオリンピックやる国でやれないわけないし、やらないという選択肢はないでしょ、と思いました。 田中 そうですね。駒崎さんほど、子ども達の課題に詳しい方ですらご存知でなかったというのが、そういう状況なんだなということを改めて思いました。私たち自身も、これまで教育の方々と繋がりが主だったんですけど、いろんな方々とつながっていくことで、私たちが培って来たノウハウですとか、知っている情報を皆さんと広く共有していくことで、すぐにでもおそらく、改善につながることができるんだなと思いました。  保育の現場でも、神奈川でやってるいい取り組みも、あるじゃんっていう。 駒崎 僕、保育業界で最も保育システムに詳しい人間の一人だと思うんですけど、それが知らないっていう状況ですよね。 田中 駒崎さんも、運営されている保育園が多様性の高い保育園だという、他の保育や保護者の方々にとってもロールモデルになると思いますし。  駒崎 そうですね。すでに多様性はあるんですよ。あるんだけど、多様性を受け止めきれてないというところがあって。それこそ、ウガンダ人に対してどう対応していくかというノウハウがゼロだから、身振り手振りになっちゃう。多様性があったとしても、その多様性を多様性として受け止められるためのツールや技術、意識っていうのを、その保育園側が持ってなきゃいけないはずなんですよね。それを一つずつ作っていくというプロセスの中にいて。今まで僕、障害の分野はかなり先駆的に対応して来てるんですけど、外国人の子どもたちに関しては全然ノウハウなかったので、これから色々ご指導いただいて、ぜひ、そこでのロールモデルにもなっていきたいなと思いました。  田中 いくらでも、私たちが培って来たものはなんでも差し上げますので。 フローレンス×YSCいいですね。グローバル対応していく保育のあり方。 駒崎 グローバル対応の保育園とかっていうと、今は結構、エリート系になっちゃうんですよ。英才教育。小さい頃から中国語教えて、グローバル人材育てようみたいな。そんなことよりも、本当に厳しい環境にある子どもたちをすくい上げていく、支えていくというのが保育者の使命だと思うので。ぜひそれを我々のところで試して、できるんだよということを伝えていきたいですね。

観察ノート