■「Descent into outright dictatorship.」廃刊した主要メディアの最後の叫び

堀潤)
「カンボジア・デイリー紙」の廃刊は、同じメディアで働く者としてショックでした。「カンボジア・デイリー紙」の元副発行人デボラ・クリッシャー・スティールさんにお話を伺ってみましょう。

デボラ・クリッシャー・スティール (カンボジア・デイリー紙の元副発行人
1993年に父のバーナード・クリッシャーが「カンボジア・デイリー紙」を創始しました。いくつかのメディアが2017年にシャットダウンされましたが、本誌もその一つです。私たちはジャーナリズムのロールモデルになることを目指していました。1991年のパリ和平協定後、24年間休刊せず続けてきました。亡くなられた国王は熱心な応援者で、「私のCIAだ」と徹底的な調査力を評価してくれました。発行部数は3000部程でしたが、政府高官が読むなど影響力は大きいものでした。フン・セン政府が検閲をしていない「カンボジア・デイリー紙」を見せ、民主主義を海外にアピールすることもありました。以前は、会社登録が無くとも新聞発行のライセンスをもらうことができていました。父や私、夫は給与を貰わずに働いており、収益はわずかでした。2016年3月に父から後を継ぎ、法人化して登録手続きを行いました。その時の税務署は非常に友好的でした。その後、税務代理事務所に依頼するなど体制を整えていきました。

2017年6月に1646コミューン(地区・自治体)で地方選挙があり、与党がプノンペン都やシェムリアップ州という大きな場所で敗北した後から状況が変わり始めました。政府からの野党やラジオ局、私たちへの圧力が強くなりました。さらに、税務署から呼び出しもありました。「夫が横田基地にいるため、訪問を延ばせないか」との問い合わせに対し送られてきた手紙は、630万ドルの税の滞納を告げる驚くべきものでした。そして、それがメディアにリークされました。「監査を受けた」と報道されましたが、帳簿を見られたこともありませんでした。税務代理事務所は、「税務署は天文学的な額をふっかけ、交渉で安くしていく手口がある」とのことでしたが、今回大きく違うのはメディアへのリーク。監査手続きや秘密保持がされませんでした。その後もメディアへのリークは続き、税務代理事務所は「これはおかしい、政治的なことだ」と言い始め、最終的には関わるのを辞めてしまいました。メディアへのリークを受けて、購読や広告のキャンセルが発生。スタッフを賄う収入減を絶たれ、閉鎖の選択を余儀なくされました。

その時期、カンボジア野党・救国党のケム・ソカ党首が国家反逆罪で逮捕されました。「カンボジア・デイリー紙」の最後の記事ではこのことを取り上げ、見出しは「Descent into outright dictatorship.(完全なる独裁政権に堕ちた)」と、独裁を指摘するものでした。翌日、父、私、夫への出国禁止令が出され、その時国内にいた夫は出国できなくなってしまいました。その後、ラジオ局の閉鎖などもあり、外国メディアスタッフの大量流出がありました。ラジオ局「ラジオ・フリー・アジア」の記者2名は拘束され、最大懲役10年の判決を受ける可能性もあります。

2017年11月17日に講談社で開催したシンポジウムにて、カンボジア・デイリー紙の最後の見出しを紹介するフォトジャーナリスト高橋智史さん

 

政府は「カンボジア・デイリー紙」の財産を差し押さえ、銀行口座を凍結し、数々の賞を受賞したメディアである私たちのWEBサイトはアクセス不可とされてしまいました。そして、私は政府から名誉棄損で訴えられました。しかし、弁護のために入国すれば出国できなくなるので、行くことはできません。「私の裁判を傍聴して私に伝えてほしい」と希望しています。日本の外交官の方の参加も期待しています。

カンボジアには「ニワトリを黙らせるために、そのうちの数羽を殺す」ということわざがあります。今なされていることは、カンボジアの自由略奪の証人を黙らせるためだと思います。

堀潤)
カンボジアの他のメディアはこのことは報道しているのでしょうか。

デボラ・クリッシャー・スティール (カンボジア・デイリー紙の元副発行人
カンボジア国内メディアは政府寄りで、報道されていません。海外メディアがインターネット等で発信しているものはあります。

■NGOの活動停止や活動家の逮捕、一般市民への暴力も

堀潤)
カンボジアの市民への影響について、ヒューマンライツ・ナウ伊藤さんにお話しいただきます。よろしくお願いします。

伊藤和子(認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ事務局長))
2015年にカンボジア野党・救国党創設者で前党首のサム・レンシーさんが来日し、日本の国会議員の方と交流されました。私がミャンマーでの選挙監視団の一員として参加し帰ってきた時のことでした。ミャンマーでは、独裁から民主化への画期的な選挙が行われたところでした。サム・レンシーさんは、「必ず救国党が勝つ」と、民主的な選挙のための支援を求めに来ていたところでした。翌日サム・レンシーさんが韓国に旅立った後、彼のFacebookへの投稿が事実に反する犯罪だとして、彼は亡命生活に入ることになったのです。

2017年6月の地方選挙での野党の躍進から一転して、これだけの問題が起きました。最大野党の救国党だけでなく、他の党にも嫌がらせがあります。メディアも、「カンボジア・デイリー紙」だけでなく、少なくとも15のラジオ局が閉鎖されています。また、最近はテレコミュニケーション法でメールはすべて監視されている前提で連絡が取りづらくなっていますので、「WhatsApp」というメッセージアプリを使っています。

「NGO登録をしていない団体は違法」、「NGO登録する団体は中立が必須」、「国家を害することは許されない」といった法律を2017年から活発に適用し、活動家をどんどん逮捕したり、NGOを解散させたりしています。複数の選挙監視NGOで構成した「シチュエーションルーム(選挙対策本部)」を、NGO法に抵触した疑いで活動停止させたのを皮切りに、他の団体にも手が及んでいます。「天然資源の収奪ストップ」を訴える環境保護団体のスタッフの逮捕や、僧侶、草の根活動にかかわる人々が訴追され、逮捕者の数がひどいことになっています。「LICADHO」という人権団体のサイト(http://www.licadho-cambodia.org/court_watch/#poi)には逮捕者のリストがあり、様々な人が逮捕されていることが分かります。

「Freedom of Assembly in Cambodia」by LICADHO Canadaより

こちらの映像(https://vimeo.com/111967281)をご覧ください。これは、市民のデモを弾圧するカンボジアの治安部隊の映像です。一般市民に暴力をふるう、これが現在の状況だとみなさんに理解してほしい。国内の人が声を上げられなくなっている今、外部にいる私たちが声を上げることが大切です。

「Freedom of Assembly in Cambodia」by LICADHO Canadaより

■NGO職員、専門家からの証言 「どんどん一般市民が委縮するような状況に」

堀潤)
今日はカンボジアで実際に活動するNGOの方、専門家の方も参加していらっしゃいます。ご意見を聞いていきましょう。日本国際ボランティアセンター(JVC)の長谷部さんお願いします。

長谷部貴俊(日本国際ボランティアセンター(JVC)事務局長))
昨年シェムリアップ州中心にカンボジアに3か月出張していました。その時の所感も交えてお伝えしたいと思います。近年のカンボジアの経済成長率7%で、プノンペンの15年来の知り合いもものすごく裕福になっています。一方で、活動地の農村では大学に行ける人は70年の歴史で1村から1名、2名しか出ていません。みんな生活のために出稼ぎに行くなど、格差の拡大を感じます。日本国際ボランティアセンター(JVC)として日本で安保法制について声をあげた時、「ここでは同じようなことはやめてくれ」と言われることもあった。先ほどのデボラさんの話にあった「ニワトリを黙らせるために、そのうちの数羽殺してしまう」というのは、本当にそういうことがあるのだと感じています。また、政府開発援助(ODA)大綱(→ http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/seisaku/taikou_201502.html 開発協力大綱(外務省))に書いてある基本原則をしっかり実践してほしい。

堀潤)
メコン・ウォッチの木口さん、お願いします。

木口由香(特定非営利活動法人メコン・ウォッチ理事))
私たちは大規模開発に注目し、それが住民の利益になっているかを監視しています。住民の立ち退き問題で、保証につながる活動などを実施しています。地域の住民の方たちの話を聞いて、地域のNGOなどと共同で政府に働きかけています。この時には、住民・NGOの忌憚ない意見を聞くことが必要なのですが、支障が出てきています。パートナー団体の「Equitable Cambodia」は活動を中止させられましたが、活動を再開するための条件や、何が抵触したのかについて示されておらず、再開ができない状態です。また、他の団体が出した声明などが、「色のついた革命と連座した行動だ」と国内メディアで非難されたこともあります。どんどん一般市民が委縮するような状況になっていると感じます。そして、複数政党制が担保されていない状況で、選挙援助の効果は望めないと考えています。

「Freedom of Assembly in Cambodia」by LICADHO Canadaより

堀潤)
高木仁三郎市民科学基金の白井さん、お願いします。

白井聡子(認定NPO法人高木仁三郎市民科学基金アジア担当プログラムオフィサー))
私は、技術開発が民主主義を揺るがす諸問題の中の、アジアプログラムを担当しています。先ほどの伊藤さんがお話しされた、環境保護団体スタッフの逮捕にも非常に驚いています。彼らは国際的・国内的な視点で守られるべき自然について、マングローブ林での政府もからむ違法な砂の採取のストップなどを目指していました。その採取は、自然のめぐみに依存して生きる住民の生活を脅かすほど大規模なものでした。このような違法な採取で企業が一方的に巨額の富を得る行為を、カンボジア政府は黙認していました。それを、環境保護団体のスタッフが活動し、大規模な砂の輸出をストップするなど成果を出していたのですが、突如逮捕。国外退去処分に追い込まれてしまい、強い懸念を持っています。彼らは貴重な資源や地域の人の生活を守ろうと非暴力の取り組みをしており、罰せられるべきは別なのではないかと感じます。今カンボジアのNGOの「N」は「NON-Governmental(非政府)」ではなく「NEAR-Governmental(政府に近い)」だと感じます。

堀潤)
UNTAC人権担当官(カンボジア1992-93年)のご経験もある東京大学大学院教授の佐藤さん、お願いします。

佐藤安信(東京大学大学院教授・弁護士))
(デボラさんの父で「カンボジア・デイリー紙」の創設者)バーナード・クリッシャーさんも、当時私がカンボジアで活動していた際に国王とともに訪問してくれたことがありました。日本が戦後賠償を求められた時にカンボジアが真っ先に助けてくれたこともあり、日本はカンボジアの支援をしています。私はUNTACの人権担当官として法の支配を支援してきましたが、現在多くの人権侵害が合法的に行われている状況を見ると、これまでの法整備支援がなんだったのかと感じてしまいます。民主主義と法の支配はセットで、今もJICAや外務省は法整備支援に取り組んでいます。しかし、形骸化してきちんと働いていません。ただ、そこで援助を止めるべきとは考えません。援助を止めることは、ある意味「北朝鮮化」を招き悪循環になるのではと危惧しています。「何か行動をしなければ」、日本のODAに対する提言を有志で作り、政府に提言していきます。今後行っていきたい提言の一部を紹介します。

・外務省のODA大綱と現場とのギャップを見据え、建前で終わっているものを現場につないでいく司令塔、専門家を入れる。また、外務省は2~3年スパンで変わるのでは専門性を持ちづらいため、腰を据えてできる人を置く。

・JICAに多くいるボランティアから、カンボジアのNGOと一緒に活動できる人材を派遣する。

・日弁連などと連携し、司法のアクセスの確保のため現地の法廷で活動する。また、大学を含めて、研究者にもっと現地の状況について調べてもらい、フィードバックを得る。

「カンボジアだけでなくベトナムやミャンマーに対してどうアプローチしていけばいいか」、今この問いには正解がありません。皆さんとともに長期的な視点で考えていきたいと思います。

友人に人権弁護士がおり、カンボジアで弁護士資格をはく奪されかねない事態になったことがありました。その時は、外務省の取り成しで不本意ながら詫びを入れることで何とか事なきを得て、今は自民党で権力の中枢にいます。そのことに批判はありますが、そうして生き残る人がいるのも大事。怯えている人に希望を持ってもらうために行動していくのが大事だと思います。

堀潤)
2001年9月から2008年3月まで日本国際ボランティアセンターでカンボジア事務所代表をされていた、昭和女子大学国際学部国際学科准教授の米倉さん、お願いします。

米倉雪子(昭和女子大学国際学部国際学科准教授))
「戦場から選挙へ」、パリ和平協定の時の精神を思い起こして欲しいと思います。地方選挙で当選した女性も、嫌がらせを受けながらも辞めずに頑張っています。そういう人たちが困難な状況の中どういう思いで頑張っているのか、その思いを忘れないでほしい。先ほどのデモ弾圧の映像で、治安部隊は罪悪感があるからヘルメットを被っているのです。クメール・ルージュ(かつて存在したカンボジアのポル・ポト派政治勢力、及び武装組織)もそうでした。フン・セン首相も民主的な体裁を整えた選挙はやろうとしている。日本は今までカンボジアにとっての最大開発援助国として援助をしてきた、その意義を。

「Freedom of Assembly in Cambodia」by LICADHO Canadaより

堀潤)
想像力を使わないといけませんね。当事者意識を持って、相手の気持ちを想像し、発信していきたいですね。

■欧米の働きかけとの温度差が 日本の外交姿勢に「方針転換を」

堀潤)
ここまでカンボジアの現状を報告していただきましたが、フン・セン政権のこうした独裁化への道を、なぜ日本は食い止められなかったのかでしょうか?

熊岡路矢(日本映画大学教授・カンボジア市民フォーラム))
日本政府がよく言うのは、1つ目に「安定があるから」。独裁政権でもいいのではないかというニュアンスです。2つ目に「今よりもっと中国寄りになるのを防ぎたい」ということ。そして3つ目に「日本は静かな外交で、カーテンの向こう側で働きかけている」と。

堀潤)
「抗議をしたら中国寄りになる」というロジックは分かるようで分かりません。説明いただけますか?

土井香苗(国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表))
非常に短期的な目線でのロジックだと思います。カンボジアが何をやってきても許してきたから、このように独裁化が進んでいきました。外交官は2~3年のスパンで変わり(方針転換を)先送りにしがちですが、「今カンボジアに嫌われても、10年後はカンボジアへのいい影響がある」といった視点で考えてほしいです。

堀潤)
自分の住んでいる土地を追われたことに対してデモをしても弾圧されてしまう。こういった状況の中、国際社会がやるべきことは何でしょうか?

伊藤和子(認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ事務局長))
欧米の大使館は頑張っています。法廷に傍聴に行ったり抗議声明を出したり。国連も働きかけをしています。国連からの発信は、日本語でも出されていますが、やや弱い表現です。一方で、欧米でははっきりと述べられています。

堀潤)
具体的な温度差は?

伊藤和子(認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ事務局長))
かなりあります。日本だと7割褒めるような内容で出そうとすることもあります。

堀潤)
「カンボジア・デイリー紙」の廃刊も本当に危機的状況ですね。カンボジア国内の今の状況が報じられなくなるということもあり得るのでしょうか?

デボラ・クリッシャー・スティール (カンボジア・デイリー紙の元副発行人
このままだと、あり得ると思います。

堀潤)
海外のメディアから、「日本のメディアの発信は弱い」と言われたことがあります。その点はどう思われますか?

デボラ・クリッシャー・スティール (カンボジア・デイリー紙の元副発行人
日本のメディアは十分に伝えられていないと思う。それは、現場のジャーナリストの問題ではなく、トップの編集の意向。もっと大きく取り上げてほしい。

土井香苗(国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表))
日本は人権侵害をしていても、まずは褒めるという姿勢があります。変えていかなければなりません。不当な裁判があった時に傍聴するというのは、海外の外交ではよくあること。日本はそれもなかなかやらないので、日本の外交官も今回のデボラさんの訴訟からぜひ実践してほしいと思います。日本も、欧米と協力して影響力を及ぼしていくべきです。方針転換をしていただきたい。

「Freedom of Assembly in Cambodia」by LICADHO Canadaより

堀潤)
今日ご出席くださっている政治家の皆さんにも、今後の日本政府のとるべき外交姿勢についてご意見を伺ってみましょう。

希望の党・源馬謙太郎議員)
政治家を志すきっかけになったのがカンボジアです。(2001年に外務省から小型武器対策専門家としてカンボジアに派遣された)当時、小型武器を回収し平和構築につなげるプロジェクトをゼロから作り上げ、12,000丁程回収しました。当時は約5軒に1軒は小型武器を持っていると言われていました。その状況をもっと大きく変えたいと思って政治を目指しました。当時カンボジア国内に2つしかないゴルフ場に行った際、フン・セン首相がヘリでやって来て、プレイしていた人を中断し、最優先でプレイするところに出くわしたことがあります。フン・セン首相が30年以上権力の座についているのは異常だと、他国のことながら感じます。これからもカンボジアのために働きかけたい。そして、日本の政治家の中で一番カンボジアに詳しい議員を目指していきます。

堀潤)
外務省の対応が遅れています。「独裁でも安定していればいい」というのは、民主化を目指す目線では非常に驚くのですが、どう思われますか?

希望の党・源馬謙太郎議員)
ある意味、政権に安定してもらうことは援助に必要だったと思います。今は時代が変わり、ステップを進めていかなければいけないのに、惰性でその外交姿勢が続いています。変えていかなければいけません。

共産党・井上哲士議員)
カンボジアの現状に非常に大きな懸念を持っています。(廃刊に追い込まれた)「カンボジア・デイリー紙」の最後の紙面には独裁国家への批判が載りました。大きな民主社会の柱がことごとく潰されています。(日本政府はカンボジアに対して)PKO派遣(1992年〜93年)を実施し、さらに選挙監視も行ってきました。日本が持つ役割は非常に大きいと思います。日本の外交のあり方について議論が十分されているわけではないと思います。カンボジアへの外交のあり方の根本を正したい。

堀潤)
この状況の中、国会議員としてどんな取り組みをされますか?

共産党・井上哲士議員)
きちんと、あるべき方向を。金を出すだけでなく、口を出していくのが大事だと考えています。

「Freedom of Assembly in Cambodia」by LICADHO Canadaより

協力:仁茂田芳枝(日本国際ボランティアセンター)、長峯幸来

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