まずは笑顔で「ありがとう」

「今まではいつも障害者というのは受け手だったと思うんです。しかしこれからは障害者はいつも受け手であってはいけないと思います。日本語には『ありがとう』というとても美しい言葉があります。このありがとうで私たちは発信していきたい。」こう話すのは、全日本盲導犬使用者の会の会長、郡司ななえさんです。 東京都内のホテルで開かれた記者会見。盲導犬を使用する人たちで作る団体が新たな試みを始めました。 その名は「ありがとう運動」。困っている時に助けてくれたり、声をかけてくれた人に対して「ありがとう」と自ら声をかけて、オリジナルのステッカーを手渡す運動です。盲導犬を使用する団体の会員およそ300名に、会で作ったステッカー合わせて3000枚あまりを配って、コミュニケーションをとってもらうのが狙いです。 ステッカーをもらった人に話を聞くと。「点字になっています。これを実際に街でお手伝いをした時にもらえたら嬉しいなって思います。」

相次ぐ事故や同伴拒否 当事者から「伝える」機会を

会がこの活動を始めたのには理由があります。ここ数年、鉄道のホームから転落して命を落とす事故が続いたり、盲導犬と一緒に店に入ろうとすると断られてしまうケースが後を絶たなかったりと、社会への理解がまだまだ不足していることに危機感を感じていたからです。 盲導犬使用者の皆さんからはこんな声が。 「渡すことによってありがとうじゃなくて、シールを手渡しすることによって私は話すきっかけができて、また話したことによって少し一つでも二つでも自分の大変なこととか相手方に勘違いされたことを伝えられたので、とても良い機会が作れたと思います。」 「ハンドコンタクト、手渡しすることで気持ちが伝わるということはあると思いますので、このシールは有効ではないかなと思います。」

「私たちも社会の一員である」

障害のある当事者の人たちのアクションは、一般の企業の意識も変えつつあります。 京王プラザホテル。レストランでのサービスなど、従業員の教育を徹底しています。 さらに、京王電鉄。駅員の誘導にも力を入れています。 京王電鉄の中澤栄一さんは、「こういった活動を地道に続けていくことで、我々は地域密着型の会社ですので、こういった活動を一個一個積み重ねて、沿線の皆様、我々社員の意識をどんどん変えていくことが必要なのではないかと思います。」と話します。 そして、今回のステッカーをデザインした協進印刷。日本語と英語の2パターンを制作。柔らかな色合いと丸みを帯びたキャラクターで親しみやすさを打ち出しました。 協進印刷の江森克治社長はこう話します。「我々の仕事というのは、少しでも知らせていくこと。我々の場合は印刷ですから、多くの人というよりは深く知らせていくことが使命だと思いますけど。知らせていくことが大事なことだと思っていますから、知らないが故に行き違ってしまうことを無くしていきたいなとは常に思っています。 会長の郡司さんも手応えを感じています。 「私は障害者はいつも受け手ではいけないと、常に思っています。私たちは障害者であるが故に社会に発信できることが必ずあるはずなんです。それを発信させて、私たちも社会の一員であるということ、みなさんと一緒に社会を生きているんだということをわかっていただきたいと思っております。」

観察ノート