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行き場を失った人たちの拠り所に。「たった一人のあなたを救う」歌舞伎町の駆け込み寺

まだまだ終息の見えないコロナ禍。いまだに多くの人が先行きへの不安を感じながら生活を続けている。

飲食店を数多く抱える東京の新宿・歌舞伎町も、休業や閉店を余儀なくされる店が相次ぎ、深刻な状況に陥った。その歌舞伎町で17年前からさまざまな問題を抱えた人々の拠り所として活動しているのが、公益社団法人日本駆け込み寺。「たった一人のあなたを救う」という言葉とともに、これまで3万人以上の相談に対応してきた。

コロナ禍に加え、例年相談が増える年末年始に24時間の相談対応ができる態勢を整えようと、クラウドファンディングで資金を募っている

「どんな問題でも、解決できないものはない」と相談者に語りかけ

玄秀盛さん
玄秀盛さん

新宿の「保健室」として、相談業務、歌舞伎町クリーンナップ運動、パトロール活動を行う駆け込み寺。設立者として今も活動の中心を担う玄秀盛さんは、「それがどんな問題であれ、解決できないものはない」と絶望の淵にいる人々に語りかける。

社会的活動にまったく無縁だった玄さんが、NPO法人日本ソーシャル・ネットワーク協会(現・公益社団法人日本駆け込み寺)を歌舞伎町に設立したのが2003年。

「それまでは不動産など手広く商売をやっていて、年商20億円くらい稼いでいました。当時は金を儲けて使うことに、生きる価値を感じていた」と振り返る。大きな転機が訪れたのは、2000年。45歳のときに献血をきっかけに、白血病ウイルス感染が発覚したのだ。

「白血病は発症すると1000人のうち1人が亡くなる病気です。白血病因子を持っているということは、突然、白血病になって死ぬかもしれないということ。そんな現実を前に、どうせ死ぬかも知れないなら、金儲け以外のことがやりたい、と。それで歌舞伎町の交番側に14坪で24時間対応の『駆け込み寺』の看板を掲げたのが始まりです」

行き場のない人々にとっての「最後の砦」

新宿・歌舞伎町の日本駆け込み寺

あそこなら、話を聞いてくれる。このひどい状況をなんとかしてくれる−−。
そんな評判はすぐに広まった。暴力団から逃げてきた風俗嬢、頼る人のいない外国人不法労働者や出所者。家出者やDV被害者の子連れ女性、親の虐待から逃げてきた子ども……。さまざまな事情で切羽詰まって駆け込んできたり、電話をしてくる人が後をたたなかった。

「相談料は一切無料。どんな相談にも“たった一人のあなたを救う”というスタンスで、真剣に向き合ってきました。ときにはDV加害者と直接やりとりして、被害者だけでなく加害者も救うことをやってきた。まるでテレビドラマのようですが、現実の話です。実際、僕をモデルにしたテレビドラマもいくつか制作されているほどです」と玄さんは笑う。

現在は、臨床心理士でもある浅井夕佳里さんが代表を引き継ぎ、トレーニングを積んだボランティアの相談員が平日10時から17時半まで対応。金銭トラブルなど法律的なサポートが必要な相談者向けに、弁護士を招いた法律相談を週末行うこともある。これらの運営を支えるボランティアには数百名が登録し、10名ほどが定期的に活動しているという。

「もともと相談者として駆け込み寺にやってきて、今は、ボランティアとして相談者さんを支える立場になっている方もいらっしゃいます」(浅井さん)

■コロナ禍で急増する「雇い止め」相談

浅井夕佳里さん
浅井夕佳里さん

コロナには、経済的、精神的にギリギリの環境下にある人々の暮らしを直撃した。駆け込み寺でも「雇い止め」の相談が急増しているという。

「コロナピーク時の歌舞伎町は本当に大変でした。ホストクラブやキャバクラをクビになったり、刑務所から出所してようやく就職できたのに職場が閉鎖されたというような相談が次々と寄せられました。店や職場の寮で暮らしていたケースも多く、仕事だけでなく住むところも失い、ようやく駆け込み寺にたどり着いたということも珍しくありませんでしたね」(浅井さん)

行政でもさまざまなセーフティネットを用意しているが、駆け込み寺に相談に来る人たちは、そういう情報をキャッチすること自体ができないことがほとんどだ。その結果、「誰も頼れない、助けてもらえない」と社会から切り離されて、孤立を深めてしまうのだ。

コロナ後は、これまで以上に相談件数が増えて、月150件ほどになる。

「コロナでほとんどの相談窓口が対面相談を中止する中、駆け込み寺ではテラスに椅子を置いて密室を避けた“青空相談”を続けてきました。切羽詰まった相談者にとって、『もうダメだ』と思ったその日に相談できることが最も大事になんです。どんなときもつながることができる場所があることで、コロナで孤独感を深めている人たちの拠り所になれたと思っています」(玄さん)

相談が急増する年末年始こそ、24時間対応する場所が必要

年末年始ボランティアによる見回りパトロール

例年、年末年始は相談者の数が増える時期だ。コロナによる年末の企業倒産なども予想され、これまで以上に、辛い現実にさらされる人も多くなるだろう。

「年末年始は店も開いておらず、行き場もなくなります。また、地方から家出してくる人も増える時期。不安と絶望で“死にたい”と思い詰める人たちが、安心して相談できる場所が必要です」(浅井さん)

そのため、駆け込み寺では年末年始は24時間体制で相談窓口の開設を考えているが、その運営資金に苦慮している。現在、運営資金は主に法人や個人の寄付などでまかなうが、寄付金は減少傾向で、厳しい状況が続いているという。

「相談者は孤立して、自分ではどうにもできなくなっている方ばかり。その人に向き合い、寄り添って話を聞いてあげることが必要です。

駆け込み寺では、相談窓口側の縦割りの都合に関係なく、どんな悩みも聞きます。まずは、我々のところにアクセスしてもらえたら、その人の悩みに合わせて解決策を考えたり、必要な機関につなぐこともできます。そういう場所が、年末年始に24時間開いているということが、どれだけ心強いか。それが実現できるように、ぜひみなさんにクラウドファンディングに協力してもらいたいですね」(玄さん)

いつ、何がおこるかわからない−−。
それはコロナが私たちに教えてくれたことだ。そして、いつなんどき、自分自身が絶望の淵に落ちるかもわからないのだ。だからこそ、社会の片隅で苦しむ人々に関心を向け、手を差し伸べることが求められているのではないだろうか。

クラウドファンディングによる支援受付は、10月28日まで。詳細は、こちら

A-port 朝日新聞社

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