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震災前の大槌町、映像で伝えたい。漁師を記録してきた映画監督の挑戦

2011年3月11日に起きた東日本大震災で、岩手県大槌町は人口の1割が犠牲になりました。その震災前を映した記録映画の製作が進んでいます。元になっている映像は、映画監督の黒田輝彦さん(74)が1980年代から撮りためてきたものです。黒田さんは「できるだけ多くの人が映っているようにして、大槌の人たちに喜んでもらえる映画にしたい」と言います。今春の完成を目指して、クラウドファンディングで支援を募っています。

黒田輝彦さん

黒田さんは元東宝のキャメラマン・瀬川順一氏、鈴木達夫氏に師事して映画の道へ。篠田正浩氏が総監督だった『札幌冬期五輪公式記録映画』(1972年)では撮影助手を務めました。独立後、CMの製作などを手がけましたが、それが肌にあわず、漁師の世界を追う記録映画を撮り始めました。「ザ・サカナマン」「翔べ!カツオ鳥」などは自らが甲板員として漁船に乗り込んで撮った異色の作品です。

漁師が船の上でどんな暮らしをしているのか、その姿を伝えることで漁師の家族に喜んでもらおうと、作品ができるたびに漁港や漁村で巡回上映を開催してきました。大槌もその一つです。1981年に開かれた上映会を機に、地元の印刷会社が応援してくれるようになり、その後、黒田さんはたびたび大槌を訪れるようになりました。

今回の記録映画は、黒田さんが大槌を訪れたときに撮っていた映像がベースになります。その中には、大槌湾でカツオ漁船に餌を積み込む光景や、震災前の駅舎などが収められています。1990年代の秋祭りでは「虎舞い」と呼ばれる民俗芸能を楽しむ様子も。その多くは、個人的なつながりで撮ったプライベートなもので、その分、大槌で暮らしていた人々が生き生きと映っています。

黒田さんは震災直後にも記録映画として編集することを考えましたが、映っている人の中には、亡くなっている人もいました。地元の住民にとっては楽しかったことを思い出すのがつらく、「あまり見たくない」という人もいたため、すぐ作業にとりかかる気にはなれなかったと言います。しかし、震災から8年が経ち、自身は5年前から腎臓病の治療で透析を受けていることもあって、改めて製作を決意しました。

黒田さんは「お世話になった方たちに震災の時に何も援助できなかった。自分ができるうちに恩返しがしたい」と話しています。

クラウドファンディングによる支援は3/29まで受け付けています。詳細はプロジェクトページ(https://a-port.asahi.com/projects/iwateootsuchi/)をご覧ください。

大槌町の秋祭り=1998年、黒田輝彦さん撮影の動画より
A-port 朝日新聞社

A-port 朝日新聞社

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