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(日本語) 増加する通信制の高校生とその進路

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平成の30年で高校生はどれだけ減ったか?


少子高齢化の進む日本社会。高校に通う生徒はどれだけ減っているのだろうか?
およそ30年前の平成元年度の高校生の数と令和元年度最新の高校生の数を比べてみる(「学校基本調査」より)。

なんと約580万人から、約340万人へ。約6割に減っているのである。

奇しくも、平成元年は過去最も高校生の多かった年である。改めて見ると、その変化の大きさに驚くかもしれない。

 

増加する通信制の高校生


一般に高校生といって、想起されるのは「全日制高校」が多いと思われる。日中毎日同じ学校に通い、同じ教室で集団授業を受けるスタイルの高校だ。生徒数も全日制が圧倒的に多い。
しかし、全日制以外にも、定時制、及び通信制の高校がある。
定時制は、「夜間その他特別の時間又は時期において授業を行う課程」、通信制課程は「通信による教育を行う課程」と学校教育法で定められる高校だ。
この、全日制、定時制、通信制の課程別に先ほど見た生徒数の変化を見てみる。

(文部科学省『学校基本調査(平成元年度)』及び『学校基本調査(令和元年度)』より作成)

全日制・定時制は高校生全体と同じように、大きく数を減らしている一方、通信制高校は2割ほど生徒数を増やしているのが分かる。高校生全体に占める割合も、約3%から、約6%と増えている。

 

通信制高校とはどんな学校なのか?


先ほど通信制高校は、通信による教育を行う課程と定められていると紹介したが、もう少し詳しく見て行こう。
『通信制高校のすべて』(手島純編著)からいくつかの点を抜粋する。

 

●通信制高校の特徴としては、「いつでも、どこでも、だれでも」という学習権の保障を狙いにする。

●通信という学習者中心の教育方法。メリットとしては自分のペースで学習を進められる。

●全日制や定時制が授業中心なのに対して、通信制ではレポートが中心。たとえば、国語を一単位修得するには、レポートを三回(三通)提出して添削を受け、一単位時間(50分)の面接指導を受ける必要がある。

●通信制高校は、以前には働きながら勉強したい人が通っていたり、農村の青年が通っていたりした。最近では不登校経験者など全日制高校あるいは中学校に馴染めなかった生徒にとっても人気の高い学校。

●「サポート校」と呼ばれる施設は厳密には通信制高校ではない。通信制高校に通う生徒たちの学習をサポートするためにレポートの添削やスクーリングのサポート試験の実施など通信制高校の指示監督のもと業務を行う場所。

●通信制高校には公立通信制高校と私立通信制高校がある。私立通信制高校は多くの学校法人立である高校と株式会社立高校に分かれる。

●生徒募集の切り口で見れば、狭域通信制高校と、三都道府県以上から生徒募集をする広域通信制高校に分類される。

具体的な通信制高校の例を挙げると、学校法人角川ドワンゴ学園「N高」は、インターネット等のテクノロジーを教育方法にも教育内容にも積極的に取り入れてきた通信制高校だが、HPで以下のように説明している。

●N高等学校は、インターネットと通信制高校の制度を活用した新しい高校です。そのため、高校卒業のための学習にかかる拘束時間を最小限にとどめる事ができます。だから自らが学びたい事に多くの時間を充てる事ができます。

●N高では将来へ繋がるオリジナル授業であるAdvanced Program(アドバンスト プログラム)を数多く用意しております。多くの経験からやりたい事をみつけましょう。

2020年3月現在の新型コロナウイルスの影響に対応して、3/18には、卒業式をオンラインのみ(生徒はビデオ会議ツール「Zoom」を使って式に参加)で実施し、それをリアルタイムで配信したりするなど、社会に開かれた学校として先駆的な取り組みも行っている。

このように、不登校経験者など「全日制に合わない、通えない」生徒の受け皿として側面と、「普通の高校」では経験できないことを学べるという二つの側面が合わさって、生徒数が増えていると考えられる。

 

通信制高校にはどんな生徒が通っているのか?


前述の通り、通信制高校の在籍生徒数は20万人近いが、昨年3月に中学校を卒業して、通信制高校入学した人は、およそ3.3万人だ。在籍の生徒数に比べると、少ないと感じられるかもしれない。
これは、通信制高校の生徒の入学経路が、中学卒業後すぐに、という人ばかりではないということだ。
例えば、別の高校からの転入・編入や、いわゆる「学び直し」で、高校中退後に働きながら通信制で学ぶ人、主婦をしながら学ぶ人、高齢者など多様な人を含んでいる。

在校生の年齢層は、文部科学省「学校基本調査」(令和元年度)から以下の通りである。
20歳未満が84%であり、大多数は学齢期であることが分かる。

 

その他、様々な生徒の状況について、「通信制高校の実態と実践例の研究-若者の総合的支援の場としての学校のあり方」(阿久澤麻理子,2015)から引用する。

 

●不登校経験を持つ生徒が高い割合で在籍(調査対象の公立高9校で在校生のうち3割~8割という回答、私立高8校では3割~「ほぼ全員」という回答)。

●長期にわたる不登校を経験した生徒は、学力ばかりでなく、体力面でも課題を持つことが多い。

●「知的障害、発達障害、精神疾患を持つ子供の在籍が多いことは、定時制・通信制に共通する課題」との指摘が公立高校で聞かれた。

●ある公立校では、入学時アンケートで「仕事との両立」を進学動機に選んだ生徒が35%である。家計を支える生徒も少なくない。

●いわゆる「やんちゃ」な生徒の在籍が少ない。「4,5月くらいまでは授業妨害や校内徘徊等があるが、通信制高校のシステムになじめず学校に来なくなる」ケースが多いという。

●「外国につながる生徒」についても、文字コミュニケーションを媒介とする通信制は難しく、実際に在籍も多くない。しかし中には、「個別対応が可能な通信制高校は「外国につながる生徒」の指導に親和性が高い。」として、20数か国170人以上の「外国につながる生徒」が学ぶ公立校もあった。

通信制の全体的な傾向として、学びのセーフティネットとしての側面(不登校や障害、健康問題、仕事との両立等)が表れてはいるが、学校ごとに状況は大きく異なるという。例えば、特別支援ニーズを持つ生徒数について、同論文では「積極的取り組みがある学校ではニーズが引き出され、より多くの生徒のニーズが把握されるという循環が生まれている。」と考察している。

 

多様な人を受け入れ、多様な進路に送り出す通信制高校


学校ごとに状況はもちろん違うが、以前の記事でも見たように、全体として通信制高校の中退率(5.4%)は、全日制(1.0%)に比べて高い。また就職や進学等の進路が決まらないまま卒業する割合も、非常に高い(通信制37.1%、全日制4.8%)。
そこで「学校基本調査(平成30年)」から、平成29年度の1年間の通信制高校の入学経路、進路を図解してみた。


(文部科学省『学校基本調査(平成30年度)』より作成)

転入・編入等の多さが視覚的にも確認される。中学卒業してそのまま通信制高校に入学する生徒よりも、別の高校を辞めてだったり、一旦仕事をして、あるいはブランクを経て入学したりといった生徒の方が多いことが分かる。やはり、通信制高校が学びのセーフティネットとして果たす役割は大きいだろう。
また、卒業者は高等教育進学、職業教育、就職等多様な進路に進んでおり、進路未決定のままの者も多い。このことからは、通信制高校の進路指導・サポートの難しさや重要性も伺い知れる。

 

※なお、転入・編入等は、やや単純化のきらいはあるが、「入学者のうち、中学卒業直後入学でも、20歳以上でもない者」として定義し、以下のように計算した。(20歳以上でも転入・編入は存在するし、転入・編入ではないが中学卒業後に就労・ブランク等ののちに通信制高校に入学する例もあるが、それらも含む。)
①入学者(前年度間)70,691人、②中学校卒業者の状況調査で「通信制課程高等学校進学」28,993人)、③20歳以上の入学者11,637人(※通信制高校在校生徒の20歳以上の割合約16.5%を入学者70,691に乗じて推計)として、<①-(②+③)=30,061人>と算出。

 

人と関わるのが苦手だったY君


育て上げネットでは、行政とも連携し、都立通信制高校など生徒への学習支援や中退予防のサポートなど行っている(「まなびタス」事業)。学習だけではなくボランティア活動や職場体験など地域との関わりの中で社会性を養い、将来の進路に対する視野を広げる活動も行っている。それはこれまで見てきたような、多様な生徒を受け入れる通信制という場と、その先の社会(進学・就職等)とのつながりを橋渡しするサポートができたら、という思いである。

これは、これまでの通信制高校に通う生徒とのかかわりの中で、出会ったY君の作文である。


(文章)
私がここに通うことになったのは、通信制高校に入って3年目の前期というかなり遅い時期でした。理由が、一人でレポートを終わらせるのは無理だと思ったことと、外に出る回数や人と関わる機会を増やすためでした。

結果レポートは良く進める事ができ、単位も、一人でやっていた時よりもずっと多く取ることが出来た上、ここをきっかけにバイトも始めより人と関わることが増え、今ではずいぶん人と話すこともなれて来ました。サマーキャンプやチャリティランチ(※)を通して、前は年齢が近い人と関わるとどうしても苦手意識が出てしまいましたが、それも無くなりました。

ここに通った通わなかったでは、少し大げさかもしれませんが、私の人生は全く違うものになっていたと思います。本当にそう思います。

(※)旅行企画実施に際し、費用を募るために法人スタッフへの昼食を作ってふるまいました。
(※)一部、個人を特定できる箇所を修正し、文章を変更しています。

 

(執筆:育て上げリサーチ)

 

 

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