人材育成労働環境

(日本語) 「若者支援」の現場から見た「就職氷河期」

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■毎年約2,000人の無業者の事例の蓄積

育て上げネットでは、独自の若年者就労基礎訓練プログラムの他、地域若者サポートステーション等行政の受託事業を複数運営し、毎年新たに約2,000人の若年無業者(15歳~概ね40代前半の普段仕事・通学・家事をしていない者)と出会い、支援している。その中で、来所時の聞き取り内容や、支援過程(個別面談・グループワーク・セミナー・職業体験等)での記録、就職等の進路決定に関する情報が日々蓄積されている。今回は、それらの情報を用いた分析である。

 

■「若者支援」の現場から見た「就職氷河期」

既に報道や各所での議論も行われているが、2020年度から就職氷河期世代支援プログラム(3年間の集中支援プログラム)が実施される。6月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針) 2019」では「就職氷河期世代(1993(平成5)年~2004(平成16)年に学校卒業期を迎えた世代)」について、「正規雇用を希望していながら不本意に非正規雇用で働く者(少なくとも50万人)、就業を希望しながら、様々な事情により求職活動をしていない長期無業者、社会とのつながりを作り、社会参加に向けてより丁寧な支援を必要とする者など、100万人程度と見込む。」と支援対象者が挙げられている。

「若者支援」の現場では、上記のような状況に置かれている「就職氷河期世代」にも日々出会っている。行政の支援事業の枠組みの中では、利用年齢上限が39歳までと定められることも多いが、そういった制約のない自前の支援事業や、40歳代もカバーする各自治体等の柔軟な取り組み等により、困難を抱えて相談に来る人達が年齢・世代で門前払いにならぬよう取り組んでいる。

もちろん、就職氷河期世代に限らず、当事者が抱えている困難やニーズ等は、十人十色で定量的に簡単に表現できるものでもない。しかしながら、日々の支援でどのような人たちをどのように支援して、どのような影響が出ているのか、より客観的な形で発信することも重要だと考えるため、今回は定量的な分析を行った結果をまとめた。併せて事例についても紹介している。

本稿では、2018年1月~12月の1年間に、私たち育て上げネットが運営する支援機関に来所した無業者についての情報をもとに、就職氷河期世代の無業者について分析する。
そのため、あくまで本分析は、就職氷河期世代全般を対象にしたものではなく、就職氷河期世代の中で無業を経験し、かつその中で私たちの支援機関(首都圏・及び大阪の都市部)を利用した方々を対象にした分析であることに注意いただきたい。
(※なお、分析したデータは、厚生労働省や地方自治体から受託運営している「地域若者サポートステーション」に来所された方のデータが大半を占める。)

 

■若者支援機関(育て上げネット)利用者の7人に1人は「就職氷河期世代」

2018年中の支援機関利用者のうち、欠損値・内部矛盾等を除いて、994名分のデータを得た。
そのうち、就職氷河期世代に該当する者(1993年~2004年に学校卒業期を迎えた者(学歴に関わらず)は137名であった。これは全体の約14%、すなわち7人に1人の数である。

■性別/最終学歴/過去の職歴

性別は、女性が約6割。支援機関利用者のうち、2005年以降に学校卒業期を迎えた若年世代(以降「就職氷河期後の世代」とする)に比べて、女性が多い。
なお、育て上げネットでは、性別について男・女から選ぶ形ではなく、自由回答で本人に記入してもらっている。一部性別欄が未記入のもの等については、分析の都合上、本集計に含んでいない。

 

また、最終学歴については、全国の就職氷河期世代と比較して、短大卒・専門学校卒がやや多いという結果であった。

(全国の就職氷河期世代の値は、「平成29年就業構造基本調査」第2-1表の、35歳~44歳データより計算)

 

支援機関利用前の職歴については、「全く職歴がない」人は少なく、全体の2%。これまで非正規雇用の経験のみという人が4割ほど。

 

以上が基本的な属性情報である。次に、どんなことに困って、どのようなニーズを持って、支援機関に訪れたのかについて見て行く。

 

■ひきこもり傾向のある者も少なくない

ひきこもりは「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態」(厚生労働省)と定義される。ひとまずこの定義に従い、支援機関利用開始時点でひきこもり状態にあった者がどれだけいるか年齢層ごとに算出した。

30代後半~にも一定層ひきこもり状態が見られ、軽いひきこもり傾向を含めると約20%であった。若年層ほど数は多くないが、これは年齢を重ねたひきこもり状態の方へのアウトリーチ(いかに出会うか)の難しさも同時に示しているとも言えるだろう。

 

なお、算出に際しては、外形的に判断可能な以下の3項目に該当するか否かで判断した。
「支援機関利用開始時の無業期間が6か月以上」かつ、
「『求職活動』の外出は『ない』(軽いひきこもり傾向は『月に1~2回』も含む)」かつ、
「友人・知人との会話の項目が『全くしない』(軽いひきこもり傾向は『月に数回』も含む)」

 

■PC習得意欲の高さとその他多様なニーズ

 

本グラフは、初めての支援機関来所時に、本人に記入いただく用紙に載せている設問、「ご相談になりたいことを選んでください(複数可)」に対する回答率を示すものである。
全16項目のうち、「PC(パソコン)を習いたい」という回答を選んだ就職氷河期世代は6割近い。「PCを習いたい」という設問自体が、支援機関が提供しているPC講座の存在を前提にした問いであり、無業者一般のニーズを正確に表したものではないということに留意する必要はあるが、それでも世代による差は明確である。

一方で、「働ける自信をつけたい」、「仕事を続けられるようになりたい」、「コミュニケーションへの苦手意識を克服したい」など、具体的なスキルではなく、精神的なサポートや社会生活に必要なことを求めている人も2~4割ほどいる。このことは、就職先を探しているだけではない、多様なニーズがあることを示す。

良い就職先が見つかればそれでいい、というわけではなく、より幅広い訓練の機会も求めていることは以下のグラフからもわかる。これは、初めての支援機関来所時に、本人が仕事に就くために必要な各スキルについて、どう思っているのかを聞いた設問である。

こちらのグラフからも、仕事に直結した技術や資格の習得ニーズの高さとともに、日常生活やコミュニケーションに関してもサポートを受けたいというニーズがあることが見て取れる。

 

■どのように支援機関につながったか

本人が自ら動いて支援機関を利用したというケースが、就職氷河期後の世代に比べて多い。反面「親の勧め」は少ない。
また、他機関から紹介等でつながったケースも3割ほどあり、内訳としては、ハローワークが多く、その他、地方自治体・他の就労就職支援機関・病院等の医療機関・各福祉センター等がある。

 

次に、就職氷河期世代が支援を経てどのような就職をしたのか、見て行く。

 

■支援機関の利用を経た就職先

分析対象の137名の就職氷河期世代のうち、2018年12月末時点で就職が決まっており、かつ就職先に関するデータが揃っている49名の就職先に関して、以下に示す。

なお、育て上げネット全体としての就職先の傾向については、こちらの記事を参照頂きたい。

 

(全国の就職氷河期世代の値は、「平成29年就業構造基本調査」第171表及び第185表の、35歳~44歳データより計算)

はじめに就職先の雇用形態だが、正社員が最も多く、次いで、パート・アルバイト、契約・嘱託、派遣社員の順である。比較対象の就職氷河期後の世代と全国の就職氷河期世代については、実数ではなく、母集団に占める各割合を示した。全国の就職氷河期世代(転職や新規就職で過去1年間に入職した人の雇用形態)と比較しても雇用形態に大きな差はない。

 

(全国の就職氷河期世代の値は、「平成30年雇用動向調査」第9表の、35歳~44歳データより計算)

業種は、①その他のサービス業(公的機関・広告・コールセンター等)、②製造業、③医療・福祉業が多く、全国の就職氷河期世代と比べて、特に宿泊・飲食業が少ないことが分かる。
なお、製造業が多いからといって、全員が製造現場で勤務しているわけではなく、後述のように、事務職として製造業の企業で働く人もいる。

 

(全国の就職氷河期世代の値は、「平成30年雇用動向調査」第17表の、35歳~44歳データより計算。なお、雇用動向調査では農林漁業従事者の分類は集計上存在しない)

職種は、事務職が多い。全国の就職氷河期世代に比べても事務職の多さは際立つ一方、管理的/専門的・技術的職業は少ない(上記で分類できない職種に含まれる)。

就職先の業種や職種には、特徴的な傾向が見られたが、私たちのような支援機関の就労支援を経て、就職氷河期世代であっても正社員を含めた就職につながっている。また、今回の分析には表れないが、支援過程では、前述の支援機関利用目的にあったように、「働く自信」がついた人、「コミュニケーションや集団行動」を学んだり、折り合いがついたりした人、「仲間」ができた人、一人一人の様々な変化がある。就職だけをゴールにした就職支援では扱うのが難しい面も、丁寧に見ていって初めて、その先の就職にもつながっていくのであろう。

この先では、上記のような支援事例の中から、就職氷河期世代の一人一人のストーリーについて、少し触れる。

 

■40歳からのキャリアチェンジへの挑戦と葛藤

「これまで15年、黙々とモノづくりをする仕事をしてきたのですが、オフィスワークに転職したくって。」

Aさんが支援機関にやってきてそう言った時、転職にわくわくした前向きな目、ではなく、俯き加減の少し疲れた目をしていた。
彼女は、木工の家具職人を10年続けてきた。その前には、雑貨専門商社などでも働いていた。大学で工芸を学び、これまで15年のキャリアで、一貫してモノづくりに関ってきたが、たびたび業績不振による解雇の憂き目にあってきた。長く勤めた前職も、である。

そうした経験から、景気に左右されない安定した業種・職種に転職したいという思いを持つように。しかし、ずっとモノづくりの世界で働いてきた彼女にとっては、異業種・異職種の経験・知識は全くない。事務で働こうにもパソコンも、これまでほとんど使ってこなかった。
そのため、いくつかの求人に応募してみるものの、なかなか採用に至らない。40歳で未経験の事務職を雇ってくれるところは簡単には見つからなかった。そんなつらい就職活動を一人で数か月続けたとき、ハローワークでたまたま目にしたパソコン講座のチラシを見て、支援機関を訪れたのだった。

はじめに、彼女は希望していたパソコン講座でWord, Excel, PowerPoint等を実践的に学んだ。また、簿記入門、データ入力体験などに参加し、幅広く事務を知り、そこで求められるものやスキルについても学び、体感した。同時に、継続的なキャリア相談で、支援員と一緒に価値観の整理や求人の検討を行いながら就職活動を行った。

就職活動は一筋縄ではいかなかった。当初は正社員を希望していた彼女。しかし、一般に事務職は人気が高く、未経験からの挑戦というハードルもある。簡単に採用とはならなかった。

そんな時にはどうしたって、「また前のような仕事も…」と未練が出る。もともと手作業で物を作ることが好きで、大学も選んだし、そんな仕事を15年続けてきた。続けられるものなら続けたい。でも彼女の経験のある分野ではそもそも求人が少ないし、会社都合で解雇されてきた過去がある。「続けるべきか、キャリアチェンジすべきか」そのジレンマにたびたび悩んだ。

支援員とも相談し、正社員にこだわることで無業期間が延びていってしまうよりは、まずは事務の経験を積んでみようと思い、契約社員・派遣社員も視野に入れ就職活動を再開することにした。

そうして、支援機関を訪れておよそ半年が経った頃、派遣社員での事務職への就職が決まった。無事試用期間を終え、本採用となった彼女は慣れない仕事・慣れない職場・職場の人間関係などに苦労しながらも仕事を続けている。希望である「安定した働き方」に向けては、まだまだ課題もある。

「今の仕事をしながらスキルを伸ばして、ステップアップしたり、何かあった時にもすぐ仕事に就けるようにしていかないと。」と、彼女の挑戦は続いている。

 

■14年のひきこもりを経て

一方、Bさんは、ほぼひきこもりの生活が14年に及んでいた。このままではいけないと分かっていても、どうしたらよいのか、分からなくなっていた。

15年前、彼は通っていた大学を中退し、その後、在学中からアルバイトをしていたパチンコ店で正社員になったが、半年で退職。その後14年間、仕事はもちろん、人との関わりも避け、ほぼひきこもり生活に入ることになった。
その間、家族とは比較的良好な関係で、時に旅行やアウトドアに一緒に行った。それでも、自分自身、このままでいいとは決して思っていなかった。でも何からどう始めればいいのか分からず、なかなか動き出せなかった。

そんな中、支援機関の「40代のための利用説明会」情報をインターネットで見つけ、自ら、一歩足を踏み出したのだった。

はじめはやはり、元気がなく、不安そうな顔をしていた。支援員や、同じように支援機関に来ている人たちに対しても、おどおどと、遠慮がちに接していた。優しすぎる性格から、人を怒らせまい、煩わせまいと気を遣っているのが見て取れた。

とにもかくにも、様々なプログラムに参加してみることに。職業適性検査、コミュニケーション講座、職場体験・見学、他の利用者や既に就職した人たちとの懇談会の見学などに参加しながら、人との関わりにも慣れていった。

仕事に就くための知識についても、知っているようで知らないことも多く、公的職業訓練の情報や申込書の書き方、資格試験の存在や勉強の仕方についても、教わった。一つ一つのプログラムと並行して、支援員と一緒に、学んだことや次の目標設定など丁寧に振り返りを行い、言語化し、就職活動の方向性を定めて行った。そして、慣れてくるとみるみる自分で動けるようになっていったのである。

そんな彼のキャリアを決める大きなきっかけとなったのが、高齢者介護施設での職場体験だった。そこで福祉の仕事に興味を持ったのだ。実際の職場で仕事を体験することで、自分の適性について確かめつつ、半年の職業訓練にも通い、介護の基礎を学んだ。

14年のひきこもりを経て、彼が一歩踏み出してから約8ヶ月。障がい者支援施設の職員の仕事が決まったのだった。働き始めて、人とのつながりも、お金も、充実感も持てるようになり、仕事終わりに飲みに行くのが楽しくて仕方なかったという。現在も、同じ職場で働きながら、専門性を身に付けたいと、通信制の大学で学びながら、精神保健福祉士の資格取得のための勉強をしている。

彼がそこで働き始めて約半年。当然職場の人間関係などで悩みが出てきたりはしている。そんな時には、支援員のところにやってきて、愚痴を言ったり、今後のキャリアについて相談しに来たりしている。

彼は、同じ支援機関に来ている人たちに、自分の経験を語ってくれた。

「14年間のひきこもりの間、色々なものを失っていた。だからこそ、今はこうして、困っている人を助けたり、社会のために何かしたいと思っている。」自分の過去も受け入れて、前向きな姿を見せてくれている。

 

■おわりに

2020年度から開始される就職氷河期世代支援プログラムでは、「就職氷河期世代」という特定の世代を対象に政策が立案され、実行される。働くと働き続けるに困難を抱える人たちを支援してきた団体として、その視点から就職氷河期世代を見ると、これまでの支援でも一定の成果は上がっている。しかしながら、生活の安定や将来的なキャリア形成まで十分に支援出来ているとはいいがたい。また、問題は大きく、現場の支援だけで到底解決しえるものでもない。

社会全体での取組が不可欠であり、この集中プログラムを機にその機運を高めていきたいと考えている。

繰り返しになるが、上記の分析は、私たちの支援機関を利用された方のデータのみを扱っており、「就職氷河期世代」のごく一部の情報に過ぎないし、深堀も十分とは言えない。まだまだアウトリーチできていない、出会えていない方、働きつつも職場の環境や待遇に悩んでいる方、地方在住の方など、様々な当事者の声・ニーズが明らかにされ、各地域での実践が共有され、発展させていくことが必要だと考える。
また、就職氷河期世代支援プログラムをより実効性の高いものにするためにも、今後もそういった声を政治・行政・社会全体にも届けていきたいと考えている。

 

(執筆:育て上げリサーチ)

 

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