■毎年2,000人前後の無業者の事例の蓄積
若者就労支援団体である育て上げネットでは、独自の若年者就労基礎訓練プログラムの他、地域若者サポートステーション等行政の受託事業を複数運営し、毎年新たに2,000人前後の若年無業者(15歳~概ね40代前半の普段仕事・通学・家事をしていない者)と出会い、支援している。
その中で、来所時の聞き取り内容や、支援過程(個別面談・グループワーク・セミナー・職業体験等)での記録、就職等の進路決定に関する情報が日々蓄積されている。
今回は、それらのうち、当法人のシステム上に登録されたデータを用いて、無業の若者がどのような業種、職種に、どのようなルートで就職していったかについて分析した。
■地域若者サポートステーションでの就労支援の流れ
今回の分析対象となるデータの大半が、当法人で受託運営している地域若者サポートステーション(東京・埼玉・神奈川・大阪にサテライト含め6箇所)及び関連する自治体事業を利用した若者のデータである。そこで、地域若者サポートステーションにおける就職までの支援の流れについて、整理する。
地域若者サポートステーションは厚生労働省管轄の事業であり、同省の定める仕様に従った範囲の中で、受託する団体(NPO・株式会社等)や地域の自治体が実情に合わせて企画・運営している。
基本的な流れとしては、初めに、就職に向けた希望や悩み・不安、生活環境、過去の経験(学歴・職歴等)などについて、相談員が聞き取りを行い、その後若者と相談員で一緒に就職までの計画を立てる。
支援メニューとしては、キャリアコンサルタント等による定期的な個別面談とともに、講座(自己理解、コミュニケーション、PCスキル、就活スキル等)や職場体験・合宿プログラム等の機会が提供されている。
地域若者サポートステーションでは、具体的な求人の紹介はしておらず、若者はハローワークや求人広告等を通じて仕事を探し、相談員は求人票の見方や仕事や企業の選び方、面接対策等就職活動のサポートを行う。仕事選び・企業選びについては、本人の希望・適性・条件・求人状況などに鑑みてアドバイスを行い、就職後に働き続けることが可能かどうか、丁寧なマッチングを図るよう努めている。
これから見ていく無業の若者の就職先についてのデータ(※)は、概ねそのような経過を経て、どのような企業、どのような仕事に、どうやって就職していったか、についての分析である。
※2018年度中に就職が決まり働き始めたことが判明した若者970名を対象に分析。(同年度中に複数回就職した(転職した)若者が少数いるが、それぞれカウントしているため、970名は延べ人数である。)
■【業種】ITが多く、宿泊・飲食は少ない
はじめに、就職先の業種について。
育て上げネットの支援を経て就職した若者の就職先を日本標準産業分類に基づいて分類したのが下記のグラフである。比較のため、厚生労働省の「雇用動向調査(2017年)」を基に、日本国内の39歳以下の年齢層における入職者全体(2017年中に転職・新規学卒等で雇用された常用労働者で、パート・アルバイト等を含む)の就職先業種を並べた。
顕著な差が見られるのが、情報通信業(IT)の多さと宿泊・飲食業の少なさだ。育て上げネットからは約1割がIT業界に就職している。若年層全体では2.3%であるのに比較すれば、非常に高い値であると言える。育て上げネットでは、以前からIT業界への就職には力を入れてきた。日本マイクロソフト社と共同で就職に必要なPCスキルを養う講座を展開したり、若者を育てる文化のあるIT企業に協力頂き、職場体験やインターン等を積極的に行ったり、独自にIT特化の訓練コースを運営したりしてきた。その成果が就職先にも表れている。
一方で、宿泊・飲食業については、若年層全体では最も多い就職先であるのに対して、育て上げネットからはあまり就職していないことが見て取れる。
飲食業の現場ではコミュニケーション・スピード感・マルチタスクが求められるが、それらに苦手意識を持つ若者がいるのも事実だ。実際に育て上げネットの支援機関に来所する若者の3割以上の若者が来所目的の一つとして「コミュニケーションへの苦手意識を克服したい」を挙げている。なお、そういった若者は、日常生活や自分が就く仕事に必要なコミュニケーションスキルを着実に身に付けて、様々な業種に就職していく。他にも、過去に飲食業を経験していたが、キャリアチェンジをしたいがために相談に来た、という若者も一定数いる。
あくまで育て上げネットを利用された方に限定されたデータではあるが、そういったキャリアに悩む無業の若者の支援機関という特性上、こうした結果が出ているのであろう。
■【職種】事務職多く、サービス職少なく
次に、就職先の職種について、業種と同様に雇用動向調査と比較しながら、見ていく。
グラフの通り、事務従事者としての就職者割合が若年層全体に比較して多い。支援現場では、コミュニケーションや体力に不安のある若者が営業職やサービス職を避けて事務を希望したり、仕事経験が乏しい人やブランクがある人が、キャリアのステップとしてひとまず事務職を希望したりするケースもある。一口に事務と言っても、総務、経理事務、受付など多様であるし、実際には事務職は決して簡単なものではないが、「なるべく(自分にとっての)負荷が高過ぎない仕事選び」という意味で、就労支援現場で事務職のニーズは高い。
他には、運搬従事者(倉庫内作業)・清掃従事者も多く、決まったパターンの作業を黙々とこなす仕事を希望したり、そういった仕事に適性があったりする若者も多い(生産工程従事者の割合も若年層全体よりも若干多い)。
なお、その他の職種の中に含まれるが、IT技術者(プログラマ、システムエンジニア、インフラ管理者等)についても、全体の7%ほどを占めており、多い職種の一つである。
これらの職種が多い代わりに、就職先として少ない職種は、サービス職業従事者(美容、飲食、調理、介護等)である。先の業種別で見たとおり、宿泊・飲食業への就職の少なさが職種としてのサービス職業従事者の少なさに現れている。
■【就職経路】HW・求人広告が大半で、縁故少なく
最後に、どのようなルートで就職していったか、その就職経路についてである。
グラフの通り、育て上げネットからの就職で多いルートとしては、ハローワーク経由が3割、求人広告(求人情報誌・インターネット等を含む)経由が3~4割だ。特にハローワーク経由は若年層全体と比べて多い。これは、地域若者サポートステーション事業がハローワークと密な連携をとって運営される公共事業であり、両者の物理的な距離の近さ、運営上の連携(相互に広報・紹介する等)等が働いているためだと考えられる。これは地方公共団体が委託する民営職業紹介事業においても、同様である(民営職業紹介が多いのは、それも含むためだと考えられる)。
一方、若年層全体に比べて少ないものには、「縁故(友人・知人等を含む)」がある(※友人・知人等を含むということで、一般に「リファラル採用」と呼ばれる、知人の勤める会社に紹介で応募する方法で採用された人も中には含まれるであろう)。これには、「縁故のあてが(もう)ない」であったり、「縁故は辞めづらいため避けたい」等の要因があると思われる。例えば、過去に縁故で働いていたが「担当業務が無くなり」「そもそも数か月の約束で」などで退職に至り、縁故のあてがなくなり、支援現場に来る若者たちもいた。また、「無業になると友達も減っていく、孤立していく」と悩む若者もおり、「無業状態=社会から孤立しやすい」ことを示唆しているのかもしれない。
なお、若年層全体としては、学校経由(高校を通じた求人紹介、専門学校等の「学校等の行う無料職業紹介事業」等が該当すると思われる)が1割程度あるが、育て上げネットの就労支援を利用する若者のうち、学校に在学中の者は非常に少ないため、学校経由での就職はほとんどない。
また、数は少ないが、「職場体験等を通して」就職する者も約6%いる。これは育て上げネットの各事業所で連携している企業等における短期・長期の職場体験(インターン)に若者が参加し、そのままその企業等や関連企業等で雇用されたというルートのことである。
例えば、西友/ウォルマート・ジャパンとの協業で、西友店舗や物流センターでの5日間の職場体験を提供しているが、実際に参加者の4割近くが西友店舗や物流センターに就職している。その他、IT企業、製造業、介護福祉など様々な職場・企業と連携している。
職場体験(インターン)では、仕事経験が浅い若者、あるいは未経験の業種に挑戦する若者にとって、自分の適性を確かめ、働き始めてからの自分をイメージした上で、仕事に就くことができる。それは職場体験を受け入れる企業にとっても同様で、その若者が職場に合うかどうか、どうすれば合わせることができるか、確かめて採用することができる。さらに、入社前からの職場体験を通じて、職場に慣れているということが、入社時の「リアリティ・ショック」を軽減し、早期の離職を防ぐ効果もある。
先に挙げた西友の例では、西友での職場体験を経ても、半数近くは別の企業等に就職している。職場体験の結果、自分の適性について理解が進んで別の仕事を選んだり、残念ながらそこで不採用となっても、職場体験の経験を通じて働く自信を獲得し、他で就職を決めたりしている。
そういった職場体験では、企業等の人事担当者・現場担当者、若者と企業等の間に入る支援者が、それぞれに丁寧に情報を交換し、相互に信頼関係を築いて、若者、企業それぞれにとって良い結果となるよう努めている。
■ひきこもりからのIT就職
ここまで就職先のデータを俯瞰で見てきたが、その裏には、一人ひとりの支援機関の利用や職業選択についての様々な葛藤や悩みがある。
A夫さん(当時36歳)は、ひきこもり状態から、初めに地域若者サポートステーションに相談、のち軽い気持ちでIT訓練コースに参加し、IT企業へのインターンを経て、そのIT企業での就職を果たした。ここでもインターンという形で就職を果たしている。
同じIT訓練コースに参加したKさん(当時21歳)は、最初はITの仕事がしたいと思っていたが、コース参加を通じて、ITに不向きな自分を発見し、イベント企画の仕事に就いた。
こちらの記事では、そんな当事者たちの声を紹介している。
彼らだけではない。多くの若者が「『ダメなら辞めればいいから、まずやってみよう』というのがありがたかった」「とりあえず試す場所があってよかった」と言う。
■「人手不足」と若者の就労支援
「こんなに人手不足なら働き口くらいあるだろう」
若者の「働く」を支援していて、企業の方や、若者の親世代の方などから、そのような意見を聞くこともある。確かに、有効求人倍率で言えば、そうだ。「接客・給仕の職業」「介護サービスの職業」「土木の職業」などは軒並み4を超える(平成31年3月「職業安定業務統計」より)。1人の求職者に対して、4つも求人がある。
しかし、支援機関を訪れた若者の中には、そもそも働くことに自信が持てなかったり、どうしたらいいか分からなかったりする人もいる。また、合わない労働環境やハラスメントなど過去のつらい経験を経て、自分でも続けられる仕事を探してやってくる人もいる。
企業から見れば、「人がいない」のかもしれないが、実はそうした若者から見れば全く同じで、彼らは「働ける場がない」と感じている。
企業が応募者を選考するように、若者も仕事や企業を選ぶ。若者の方が一方的に弱い立場に置かれるのはフェアではない。
また、若者が仕事に就けたとしても、(企業から見れば若者を採用したとしても、)「働き続ける」ことができるかどうか、そこに両者不安を持っている現状もある。
育て上げネットでは、若者の「働き続ける」についても様々な支援に取り組んでおり、引き続き、支援現場で蓄積されたデータに関して調査・分析を行っていきたい。
(執筆:育て上げリサーチ)