文京区と5つの非営利組織から構成される共同事業体は7月20日、厚生労働省にて、子どもの貧困解決に向けた新規事業「こども宅食」のキックオフ記者会見を行いました。
「通常の配送会社さんが届けていくという形でスティグマを追わないようにしようという配慮があります。お米や飲料、お菓子、また調味料など、あると助かるなというものを詰め合わせて10キロ程度のものをお届けするという形になります。」認定NPO法人フローレンス代表で、「こども宅食」の責任者を務める駒崎弘樹さんは話します。
「こども宅食」では、飲料メーカーのキリン株式会社や備蓄食品を専門とするアルファフーズ株式会社など、10の企業や団体の食品の寄付に支えられています。また、日本で約621万トンあると言われる「食品ロス」も積極的に活用していくと言います。
今回対象となるのは、文京区内の児童扶養手当を受給する700世帯と、就学援助を受給する1000世帯。QRコードがついた案内状が対象世帯に届けられ、無料通信アプリ『LINE』を通してペーパーレスの申し込みができる仕組みとなっています。今年度は2ヶ月に1回、申し込みがあった世帯から抽選で150世帯に発送。翌年度からは毎月発送することを目標としていると言います。
■「見えにくい」貧困世帯を「見えない」状態のままで直接支援を
今回、文京区という基礎自治体と手を組み事業を進めていけるメリットを、駒崎さんはこう話します。
「通常こうした児童扶養手当受給者、あるいは就学援助世帯の情報に絡むような事業を民間の支援団体やNPOとともにするということは行政にとってかなりハードルが高い。我々民間団体はどこに支援が必要な子どもがいるのかわからない闇の中で一生懸命活動をしているというのが通常のケースになる。自治体とともにやらせていただけることによってピンポイントで支援を届けられる。」
昨今、子ども貧困対策として注目を集め広まってきた「こども食堂」。文京区でも「こども食堂」の活動を行う団体は増え、今年度は区の一般会計から運営補助が。しかし、成澤廣修文京区長は、「こども食堂」という支援の形に限界を感じていたと言います。
「居場所作りになっているんですね。本当に貧困の子どもたちのためにやっている『こども食堂』ではなくて、貧困の子どもも来ているかもしれない、両親は高所得者だけどネグレクトを受けている子どもも来ているかもしれない、仲間が集まるから来ている子どももいるかもしれない。支援に限界を感じておりました。私たち文京区は生活保護率を見ても23区の中で決して高い方ではありません。むしろそれなりの資産や所得を持った方が多い自治体です。そういう自治体であればこそ、『見えない』という状態がむしろ色濃く出てくる可能性がある自治体だと思っています。行政が直接そういった人たちに支援をすると、地域の福祉のネットワーク等で、その子たちが「貧困家庭の子ども」だと周囲に見られてしまう危険性があるので、今回は(行政が前に出ない形で)民間のNPOや様々なセクターの皆さんたちと協力し合うという形に意味があると考えています。見えない状態のまま子どもたちにきちんと食料を届けることが子どもたちを守ることにも繋がると思っています。」
「こども宅食」事業では、LINEを通じての直接的なやり取りやアンケート、また宅配時に宅配員が気づいたことをチェックシートに記入し事務局に報告するなどの形で、対象世帯へのソーシャルワークも行なっていく予定です。
「子どもたちの元に食料を届け、そこで繋がり、厳しい環境にあるご家庭の相談にのり、そしてソーシャルワークをしていきながら共にご家庭の課題を解決していく。食料を届けるだけでなく、そこから後につながる支援、セーフティーネット作りが大切な部分だと感じている。」と駒崎さんは話します。
■「ふるさと納税のあり方に一石を投じたい」 返礼品は「世の中の変化」
「こども宅食」の大きな特徴は、ふるさと納税が活用されるという点。しかし、駒崎さんは「返礼品はありません」と言います。
「強いてあげるならば、それによって子供達の生活が支えられる、世の中が変わっていくという『変化』が返礼品となります。ふるさと納税を文京区にすることで、文京区の一般会計に行くのではなく、このこども宅食という事業にそのまま全額いくという形で、人々のふるさと納税という寄付によって回っていくという仕組みになります。」
成澤文京区長は、「ふるさと納税の返礼品競争に一石を投じたいという思いがあった」と話します。
「昨今返礼品主体の競争に対する批判は厳しいですが、我々も10億円、僕は被害額と言っていますが、ふるさと納税で文京区でも出ていっています。今回貧困の家庭の子どもを救おう、幸せを届けようという目的によってふるさと納税のあり方に一石を投じたいという思いもありますし、そのことが子どもの幸せに直接繋がるということで、このプロジェクトに賛同しました。」
ふるさと納税は、①栄養バランスを良くするための食料の買い足し、②配送料、③スタッフの人件費、④食品を保存する倉庫費用、などに活用される予定です。
■それぞれの専門性を活かし、「子どもの貧困」問題解決へ向け協働
「こども宅食」は、文京区と5つの非営利組織による共同事業体によるプロジェクト。記者会見に出席された、フローレンス駒崎さん以外の4団体、また専門家の方からのコメントをそれぞれ紹介します。
▷一般社団法人RCF藤沢烈さん「RCFの役割としては、今回大手の企業様に食品をご寄付いただくことになっていますが、その部分の企画をしたり調整をさせていただいております。企業としてもこの事業が非常に有効であって、継続的に食品を寄付し続けることが大変大受なんだということをご理解いただいて、参画いただくということが私の役割になっております。」
▷NPO法人キッズドア渡辺由美子さん「私どもはこのプロジェクトの中で、西濃ホールディング様とご一緒にタッグを組んで、食品を個食に分けて、お宅にお届けするというところを担わせていただきます。キッズドアでは10年程、低所得のご家庭のお子さんたちの無料学習支援というのをやってまいりました。ご家庭の状況は厳しいです。『月の後半になると食卓にもやしの出現率がすごく高くなる』とか、『家のコメが切れちゃったので何かご飯ありますか?』と言ったり、お昼代の予算が100円しかなくて駄菓子しか食べられない、おにぎり一個買えないお家もあります。こども宅食プロジェクトでご家庭の食費を少しでもカバーでき、子どものお腹が少しでも満たされたら。」
▷一般財団法人村上財団理事・村上絢さん「日本の上場企業への株式投資などによって得た利益を社会貢献に役立てるために設立。本宅食プロジェクトでは、プロジェクトをスタートするにあたっての初動資金を寄付させていただきました。ふるさと納税という仕組みを使って、様々な非営利団体が寄付を集めやすくなり自治体における諸問題を解決するきっかけになるのではないかと思い、今回寄付をさせていただきました。」
▷認定NPO法人日本ファンフドレイジング協会・鴨崎貴泰さん「今回の事業の中では、受益者のお子さんやご家庭にどんなプラスのインパクトが出ているのかを『見える化』していくための『社会的インパクト評価』を担当させていただきます。具体的には、お子さんの栄養状態、またはご家庭の栄養状態がどのように変わっていくのか、今回の目的であるご家庭の貧困状態が根本的にどのように解決していくのかについてデータを取り、事業改善をしながら、その解決を目指していきます。」
▷食品ロス問題専門家・井出留美さん「このプロジェクトにおいては食品の分野のアドバイザーとして参加しております。今回お子様のいらっしゃる家庭に提供する食品の一部分は『食品ロス』と言われるものを徹底的に活用していきます。例えば、行政でも備蓄をしていらっしゃいます。それは賞味期限の手前で入れ替えをします。これまで備蓄していたものを寄付していただいてそれを活用する。また、全国のフードバンクからいただいている食品も活用します。食品ロスの問題を解決しつつ、栄養、それから日々のエネルギー摂取に困っているお子さんたちに少しでも役立てるように尽力していきたいと思います。」
こども宅食コンソーシアムは、7月20日から年末までの期間で2000万円を目標に、ふるさと納税の募集を始めています。全国の自治体に「こども宅食」が広がることが期待されています。
https://www.furusato-tax.jp/gcf/155