子ども教育貧困

【子ども支援】児童養護施設の小学生への学習支援で子どもたちの未来を支えたい

保護者のない児童や、被虐待児など家庭環境上「社会的養護」を必要とする児童は、約4万5千人。そのうち、現在全国に605箇所ある児童養護施設に暮らす子どもたちは、概ね2〜18歳の25,282人に上ります(※1)。児童養護施設の主な入所理由は「父又は母の虐待・酷使」が18.1%、「父又は母の放任・怠だ」が14.7%で、平均在所期間は4.9年とされています。12年以上在籍している児童も7%います(平成25年2月1日時点)(※2)。

そんな中、「認定NPO法人3keys」は、東京都内の2つの児童養護施設と連携し、2011年から小学生への学習支援を続けてきました。今後支援拠点を2施設増やそうと、クラウドファンディングに挑戦しています(支援URL::https://bit.ly/2TPlzVC)。

認定NPO法人3keys代表理事・森山誉恵さん

■『1+1=2』を暗記 「数字の概念」が分からない子どもたち

3keys代表理事の森山誉恵さんは、大学時代に近所の児童養護施設でボランティアを始めたことをきっかけに、虐待や貧困などの家庭で育ち十分な学習環境がなかった子どもたちの支援を始めました。その中で、施設にいる子どもたち特有の学習課題に直面し、3keys設立後はオリジナル教材の開発にも力を入れるようになりました。

「最初は学習塾さんと連携して市販の教材よりかなり簡単なものを基本教材としていたのですが、それでもなかなか解けない子がすごくたくさんいて。子どもが解いている様子や解いた教材を見ながら分析していくと、『数字の概念』すら分かっていない子たちがたくさんいて」と、森山さん。

3keysオリジナルの算数教材では、「1+1=2」という数式を学ぶ前に、「○○は、○と○」「2は、1と1」と、丸や数字で「概念」をスムーズに理解できるよう工夫されています。

「幼児期に家で『おはじき』や『お買い物ごっこ』をしっかりやっていると、小1の段階で何となく分かって学校に来る子が多い。でも、虐待や育児放棄で絵本を読んでもらったこともなければ、一緒に買い物に行ったこともない、親といろんな遊びを幼児期に経験していないとなると、『1は記号でしかない』というのがなかなか抜けられない。例えば、『1+1=2』は『1と1が合わさったもの』という概念ではなく、暗記してしまっている。そうすると、一桁の計算までは解けるのですが、『15+15』になると暗記できなくなってしまい、そこからつまずきが始まっていくというのが、寄り添っていると見えてきました。児童養護施設で支援している子だと小1から中3の7割はここからつまずいている印象で、中学生でもここからスタートしなければいけない」。


■「プライドを傷つけられる体験なく、自分のレベルに合った教材」を

国語でもオリジナルの音読教材を作り、子どもたちが文字や文章に慣れることができるようサポートしています。

「絵本を読んでもらった体験が圧倒的になかったり、育児放棄でそもそも親と会話すら十分にしてきていなかったりするので、2行くらいあるともう苦痛で読みたがらない。習慣がないので、記号が並んでいるような感じ。数学や社会をやるにも全部言葉なので、ここを克服しないことには前に進まない」と実感した森山さん。

音読教材は、「そらにあります しろいいろです これなあに」「くも」と、大人にクイズを出せるような形式になっています。これは、子どもたちのプライドを傷つけないための工夫だと森山さんは話します。

「そうすることで、『簡単なものをやらされている』という気持ちではなくて、むしろ自分が少し優位に立てる。(音読教材は)市販でもあるのですが、明らかに幼児向けになっていて、プライドがあるから読みたがらない。職員さんが『これ絶対に解きたがらないんですよ』と話していたり、職員さんに『こんなの解かせやがって』と暴言を吐く子もいたり、『私はこんな簡単なやりたくない』と言う子もいたり。『自分は明らかに簡単なものをやらされている』というプライドを傷つけられる体験なく、自分のレベルに合った教材がスタートできるにはどうしたらいいんだろうと考えて行き着いた教材です。」。

レベルが上がるごとに少しずつ文字数・文章量を増やし、子どもたちが負担なく楽しく続けられるように設定されています。

「レベルが上がっていくのが辛くならない程度のステップアップを意識しています。これを1日3〜5枚ぐらい。施設によっては、これを読んでからおやつタイムというところもあれば、職員さんに3枚読んで聞かせてから寝るというところも。今のところすごく好評で、先生も子どもも喜んでやっているという報告がたくさんきています」。


■「大人も無理なく続けられる」教材作り

児童養護施設での人員配置は、平成24年度に基本的人員配置の引き上げが行われ、職員1人当たり小学生以上の場合5.5人と定められました(※1)。全国児童養護施設協議会によると、「それぞれの施設の近くには民家やアパート等を利用したグループホームが増え、より家庭に近い養育環境を整えるため、少人数グループでの生活を基本とする施設の小規模化に向けた取組み」が進められています(※3)。

ただ、子どもと深い関わりができる分、職員の皆さんの心労が増えているのも現状です。

「(職員さんの)本音は『忙しくて、大変なものはなるべくやりたくない』ということ。職員さんたちは、1人で約6人の親代わりをしています。食事を作って、連絡帳も全部見て、洗濯物もして。そういう中で、子どもの宿題を見たり、勉強をサポートしたりというのはすごく大変。最初はボランティアをつけてやっていたのですが、ボランティアだと行けて週に1、2回になる。小学生だと放課後は1日20分程しか集中力が持たないので週1回20分の勉強をやってもあまり進まなくて。ボランティア体制ではなく、職員さんが1人1教科5分ずつ、1人10分ずつ関われば前に進むスタイルに思い切って変えました。その10分で、例えば、予習しなきゃいけない、解かせるまでに説得しなきゃいけないというのが毎日あると、続けるのが難しい」と、森山さん。

3keysでは、子どもたちだけでなく、勉強をサポートする施設の職員の皆さんも負担なく教材を導入できるよう最大限配慮した教材作りを意識しています。

「大人が教えなくても教材を見れば子どもが解けるような教材を作らないと、施設の職員さんがもたなくなる。教材だけ見ても子どもたちが『こういうことかな』と解けるような、説明がいらない教材にしていくことがポイントです。本当は(おはじきなどの)物などがあればいいのかもしれないのですが、物だと大人が管理するのが大変になる。あえて紙にすることで、大人も無理なく続けられるようにという視点で作っています」。

©︎認定NPO法人3keys

■根気強く通い続けて築いた職員さんとの信頼関係

森山さんは、職員さんの「本音」からニーズを掘り起こし、その都度教材に反映させてきました。しかし、信頼あっての本音。職員さんとの信頼関係を築くまでには、スタッフの地道で丁寧で根気強いコミュニケーションの積み重ねがあったと森山さんは話します。

「『この人たちだったら解決してくれるかも』という信頼関係がないと、職員さんも本音を言ってくれない。本音が出てこないと、適切な教材を作れないし、プログラムにもできない。月に1回訪問して、『1ヶ月どうだったか』『この教材解いてみてどうだったか』など、子どもが15人いたら15人分全て聞きます。最初は3〜4時間ヒヤリングしていました。『何に困っていて進まないのか』を聞きたかったので、否定せず、とにかく聞いて。翌月には、『こうやって落とし込んでみましたけど、これだったら使いやすいですか?』と持っていく。それを重ねていくうちに、『評価しに来ているんじゃないんだな』と伝わり、今では本音で話してくれるようになりました」。

2011年から始めた小学生への学習支援。2施設で述べ100人の子どもたちと向き合っていく中で、それぞれの学力や環境に合う教材・カリキュラムがついに成功し、教材研究の成果が職員さんの声からも見えてくるようになりました。

「最初は施設の職員さんも成功体験がないんですよね。今までに小学生の学習支援をしてうまくいった試しがないから、『どうせやっても自分たちの仕事が増えるだけでしょ』というところからスタートする。でも、子どもたちの成果が出たり、子どもの問題行動が減ったり、『あの子毎日勉強しているらしい』という噂が施設の中で広がったりすると、だんだんと職員さんの中で広まる。今では、支援している2施設に関してはほぼ全員の小学生がうちの教材をやるまでに浸透しています。今一番嬉しいのは、『やりたくない』とか『これやっても無駄かな』という施設からの不満が全く出なくなったこと。訪問する度に、『私たちもすごい勉強になるし、すごく手ごたえを感じている』『子どもたちがすごく勉強するようになっている』という良い報告しか上がらなくなりました」。

3keysがサポートしている施設の職員さんの1人は、3keysの教材を導入してからの変化をこう話します。

「かつて当施設では、職員と子どもと一緒に勉強しようという時間に、学校の宿題以外で用意するものは担当職員が用意することが多かった。ドリルをコピーするとか、オリジナルの教材を自作する職員もいました。ただ、それぞれの教材にばらつきが出たり、人的・時間的なコストが莫大にかかったりして、どうにかならないかと導入に至りました。(3keysは)ただ教材を提供してくれるだけでなく、スタッフが施設まで来て時間をかけて打ち合わせをしてくれる。その子に教材のレベルがあっているか徹底的に考えてくれる。中学2年生の子が、僕が学習プリントを用意しているのを知っているので、『あれ頑張っているんだよ。あの勉強していれば根本のところもできるようになるんだということが自分の中でピンときた』と言ってくれて、すごく嬉しかったです」。

©︎認定NPO法人3keys

■小2で登校停止 小学生からの支援が必要な理由

「2施設で留めるのはもったいない」と支援拠点の拡張を決めた3keys。森山さんが小学生からの支援にこだわるのは、現場での経験からくる強い思いがありました。

「私たちは中高生の学習支援も長年やってきたので、中高生から勉強をスタートすることの難しさやもったいなさを痛感しています。中学2、3年から始めると、受験が目の前に差し迫っていて基礎からのスタートが出来ない。中卒はかなり厳しいので、『受験にとりあえず受からないと』という理由での学習支援になる。それを乗り越えたとしても、高校に入ってまたつまずいて中退してしまったり、何のために高校に行ったか分からなくなってグレてしまったり、勉強嫌いを克服できずに不登校気味になったりする子もいます。もっと早くやってあげれば、ここまで勉強嫌い・学校嫌いにならなかったのかなと。それを解消するには、小学校低学年・中学年からスタートしないとなかなか厳しい」。

森山さんは長年支援を続け、多くの子どもたちと出会ってきました。その中でも特に忘れられないのは、勉強についていけずに小学校で荒れ気味になり、小学校2年で登校停止になった男の子です。

「保護者から『あの子、学校来させないでください。あの子がいるとうちの子の勉強の邪魔になる』とクレームが入り、小学校2年生で登校停止になってしまいました。かなりエネルギーがあり暴力グセのある子だったので、勉強ができないけど授業が展開されていることにイライラして余計にそうなったのだと思います。気に食わないことがあると子どもに暴力を振るう家庭だったようで、その子もすごく暴力を受けてきていました。その子は悪気なく、自分に今思いつくことをやっているだけ。もちろん良くないことですが、それはやはり、大人や施設、私たちが解消していかないと。スタートラインはその子のせいじゃない。彼のような子はどこでもあり得る」。

生まれ育った環境によって子どもたちの自信や希望が奪われることのないよう、3keysは子どもたち一人ひとりに寄り添った支援を続けていきます。クラウドファンディングは、9月3日まで(支援URL::https://bit.ly/2TPlzVC)。

©︎認定NPO法人3keys

(※1)社会的養育の推進に向けて、平成31年4月、厚生労働省子ども家庭局家庭福祉課、https://www.mhlw.go.jp/content/000503210.pdf

(※2)児童養護施設入所児童等調査結果(平成25年2月1日現在)、平成27年1月、厚生労働省雇用均等・児童家庭局、https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11905000-Koyoukintoujidoukateikyoku-Kateifukushika/0000071184.pdf

(※3)もっと、もっと知ってほしい児童養護施設、2015年3月、全国児童養護施設協議会(全養協)、http://www.zenyokyo.gr.jp/pdf/pamphlet_h27.pdf

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