(日本語) ファクトチェッカーを支えるネットワークを構築し、「事実と異なる情報に惑わされない社会」を作りたい

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■日本のファクトチェックは遅れている?

4月2日が「世界ファクトチェックの日」であったことをご存知でしょうか?トランプ大統領を生んだ2016年のアメリカ大統領選挙を機に「フェイクニュース」という言葉をよく目にするようになった今、ネット上に溢れる情報の全てが必ずしも正しいとは限らないことを実感している方も少なくないのではないでしょうか?

そんな中、疑わしい情報の真偽を検証しようと始まったのが「ファクトチェック」です。真偽検証した上で、その結果を証拠等の判断材料をもって記事の形で提供するというのが、現在よく見られる「ファクトチェック」の形です。

米デューク大学公共政策学部でジャーナリズムのリサーチを行う「Duke Reporters’ Lab」では、世界のファクトチェック専門サイトのデータベースを作成し、随時更新しています。「Duke Reporters’ Lab」によると、専門サイトの数はこの4年で3倍以上の149にまで増えたと言います(https://reporterslab.org/fact-checking-triples-over-four-years/)。

©︎Duke Reporters’ Lab

しかしながら、「Duke Reporters’ Lab」がファクトチェックの専門サイトと認定するためのいくつかの基準をクリアし、このデータベースに掲載されている日本のファクトチェック機関は、2012年に設立された日本報道検証機構(GoHoo)のみ(2018年5月時点)。「朝日新聞社」や「Buzz Feed Japan」、調査報道NPO「ニュースのタネ」などの報道機関もファクトチェックの特集を始めているものの、まだまだ日本ではファクトチェックの取り組みは限定的で、世界と比べて遅れていると言えるでしょう。

©︎Duke Reporters’ Lab

その状況に危機感を感じ2018年1月に設立されたのが、日本国内のファクトチェックの推進・普及を目指すNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」です。目的は、「ファクトチェックの普及、啓発等に関する事業を行い、社会に誤った情報が拡がるのを防ぐ仕組みを作り、市民が事実と異なる情報に惑わされないような社会を構築すること」。

早稲田大学ジャーナリズム大学院/政治経済学術院教授で、FIJの理事長を務める瀬川至朗さんは、FIJ設立に至った経緯やファクトチェックの意義をこう話します。

「フェイクニュース、真偽不明の情報がネットを通じて急速に拡散する時代になり、そういう不確かな情報に市民の健全な判断が左右される恐れがあるという時代になっていると言えると思います。一方で、既存のメディアに対する市民の信頼が失われつつあるというのも世界共通の課題だと思います。そういう中で、日本におけるファクトチェックを推進することが重要。ファクトチェックの意義は、①誤報・虚報の拡散を防止に貢献すること、②ジャーナリズムの信頼性向上に貢献すること、③言論の自由の基盤強化に貢献することです。」


■ファクトチェックに取り組みやすい環境づくりを

FIJの特徴は、ファクトチェックを行う団体ではないというところ。

「日本でファクトチェックを行う組織、あるいは個人に情報面、技術面、資金面のサポートを行い、ファクトチェックの担い手(ファクトチェッカー)を増やし育てることが大きな役目。目標は、日本においてより多くのメディアや個人がファクトチェックに取り組めるネットワークの構築を目指すということです。」と、瀬川さん。

ファクトチェックの協働・支援の仕組みが活躍した最初の事例が、FIJの呼びかけにより行われた「2017年総選挙のファクトチェックプロジェクト」です。

©︎ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)

ファクトチェッカーとして参加した4つのメディア「Buzz Feed Japan」、「Japan In-depth」、「ニュースのタネ」、「GoHoo」に対し、FIJの「情報共有支援チーム」から対象候補や選挙にまつわる正確性に疑義のある情報を提供。「情報共有支援チーム」では一般市民の方々が情報収集を支え、4つのメディアは同じ情報を持って、それぞれの視点からファクトチェック行いました。

ファクトチェッカーが記事を作成するにあたっては、透明性や公開性を担保するなどのファクトチェックの国際標準的な原則を踏まえて、ガイドラインを作成。2017年9月時点の暫定的なガイドラインとして、以下の5つ「①対象言説を特定する、②認定事実と結論の明示、③判断根拠と情報源の明示、④わかりやすく、誤解を与えない見出し、⑤公開日・作成者・訂正情報の明示」を定めました。

結果、4つのメディアから合計22本の記事が発表されました。

©︎ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)

「GoHoo」代表でFIJ理事/事務局長を務める楊井(やない)人文さんはプロジェクトの成果について、「産經新聞の記事の中で誤報がありました。具体的には、当時立憲民主党は政党要件を満たさないのではないかという記事でした。これに対し、誤りだと指摘するTweetが見つかりました。これをメディア側に提供して、事実に反するということが実際に取材・調査で明らかになりました。ファクトチェック記事を出すと、産経新聞も訂正記事を出しました。ファクトチェックの結果がこうしてきちんとメディア報道においても訂正記事として現れるということがありました」と話します。


■「藁の中から針を探すような作業」を人力で

総選挙だけでなく、普段からファクトチェッカーへの情報面でのサポートできるよう、FIJでは「Claim Monitor」という実験的なプロジェクトを始めました。

©︎ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)

これは、正確性に疑義がありファクトチェックが必要な情報を集約し、ファクトチェッカーに共有するためのプラットフォームです。現在、市民記者、地方公務員、国内外の大学生、フリージャーナリストなど、15名の多種多様なバックグラウンドを持ったメンバーが、仕事や勉学の合間を縫って参加しています。

彼らが行っているのは、疑わしい情報について指摘しているTweet(ソーシャルメディア「Twitter」での投稿)をチェックし、さらにそれがファクトチェックの必要な情報かどうかをふるいに掛け、必要だと判断したものを「端緒情報」として「Claim Monitor」で共有する作業です。現在、約3ヶ月で約250件の「端緒情報」が集まっています。

対象となるのはメディア報道、政治家の発言、有識者の言明など多岐に渡りますが、ファクトチェックすべきはその「意見」ではなく「事実」だと、楊井さんは話します。

「必ず気をつけていかなければならないのは、『事実』と『意見』をきちんと区別するということ。あくまでも我々が検証するのは、『意見』や『立場』が正しいかどうかでは全くありません。『事実』が正確かどうか、きちんと客観的な根拠に基づいた言説なのかどうかということだけをチェックするのが、ファクトチェックの役割です。」

©︎ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)

しかし、「端緒情報」を見つけるこの作業が、最も労力を必要とする大変な作業だと楊井さんは言います。

「『偽or偽装or嘘偽り』などのキーワードで絞り込み、さらに何らかのURLも紐づけられているTweetをチェックします。しかし、本当にファクトチェックが必要な情報は、我々の経験では1000件に1件。まさに、藁の中から針を探すような作業です。また、業として毎日のようにやっていると、かなり疲れます。普通の精神状態ではできなくなります。ネットの情報をモニターしていると、キーワードである程度絞っているとはいえ、相当汚い言葉で色々言っているTweetもあります。見ていて気持ちの良い情報は少ないですね。また、雑多な分野で常時いろんなニュースが入ってくるので、頭の中を整理するのも大変です。心的に負荷のかかる作業だと言えると思いますね。」


■新しいツールの開発で作業の効率化を 今秋までに実用化を目指す

「端緒情報」を見つける作業を効率化し、ファクトチェックを技術的にサポートすべく、「東北大学乾・岡本研究室」、「スマートニュース株式会社」、そしてFIJの3つの機関が協力して、AIを使った新しいツールの開発を進めています。

東北大学大学院情報科学研究科の乾健太郎教授は、自身が研究する「自然言語処理」を生かした支援がしたいと考えています。

「これまでにチェックすべきだとわかっている記事とそうでないとわかっている記事を集め、その記事からある種のパターンを機械的に学習します。IT技術を使って様々なところから情報を集め、よりファクトチェックしたほうがよさそうな記事、そうでなさそうな記事、その可能性を機械的に判断して、ファクトチェックすべき可能性の高そうなものをランキングに。上位だけを人間に見てもらうことによって効率化していくことを考えています。」

©︎ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)

しかし、テクノロジーにはまだまだ限界があると楊井さんは言います。

「人の労力をできるだけ少なくできるような技術開発を進めていく。しかし、いくらテクノロジーが進化しても、自動的に正確/不正確の答えを出してくれるものではありません。あくまでも最初の作業を効率化してくれるものです。最終的にファクトチェックすべきものを絞り込んで調査するというのは人間がやるしかない。(ツールを活用して効率化することで、)そこにできるだけリソースを集中させられるようにしたい。」

新たなツールの実用に向けて、共同開発チームは幅広い支援を求めています。

「この夏までに今のプロトタイプを完成させ、実際に思考実験を行い、今年の秋に実際に現場で使っていけるものにしていきたい。こうした仕組みを我々3つのグループだけでなくて、様々な機関、様々な企業、様々な研究者に入っていただいて、多くのスキームの中で透明性の高い仕組みを作っていきたいと考えております。(乾教授)」


■「市民の皆さんもファクトチェックに参加していただけるような仕組みを」

楊井さんは、市民も参加しやすいファクトチェックの仕組みづくりをFIJとして工夫していきたいと考えています。

「欧米、特にヨーロッパでは、元々ジャーナリストではない人がファクトチェックに取り組むということが非常に増えていると聞いております。非常に多様なバックグラウンドの人がファクトチェックに参加しているというのを、昨年ファクトチェックの国際会議に参加して非常に感じました。FIJでも市民の皆さんにもファクトチェックに参加していただけるような仕組みを作れないかと取り組んでおります。悪意のある人はいますけど、多くの誤った情報の大半は、人間の勘違いや思い込みで生じているものが大きいと思います。今は誰でも発信できる時代ですから、誰でも間違った情報を発信してしまう可能性がある。自分で誰かの間違った情報を広めてしまう可能性がある。自分事として当事者意識を持って欲しい。ファクトチェックをすることは、自分たちのスキルアップ、リテラシーを高めることにも役立つと思います。手の空いている人は少しでも参加して、時間のない人はファクトチェックをする人を応援する側として支援していただければなと思います。」

FIJでは寄付での支援も必要としています。集まった支援金の使徒としては、活動継続のための諸費用や、新しいツールの開発費に加え、世界ファクトチェックネットワーク(IFCN)の特設サイトの日本語訳も進めていきたいと考えています。日本ではまだまだファクトチェックに関する情報が限られていますが、IFCNの特設サイトでは様々な教育コンテンツも提供されていると言います。

【支援金の用途】
・ファクトチェックの海外のホームページの日本語訳
・活動継続のための経費(ワークスペースの確保、人件費、サイトのリニューアル)
・新しいツールの技術開発

情報を取り巻く環境をよりよくしていくために、私たち一人ひとりが何ができるかを考え、アクションを起こしていくことが必要とされています。


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