人材育成子ども教育

就労支援に訪れる若者 2割が中退、4割が不登校の経験

◆就労支援に訪れる若者 2割が中退、4割が不登校の経験


若者支援の現場では、ひきこもりの若者や「働く」に困難を抱える若者と日々出会っているがその中には学校時代から不登校などの状況にあったり、学校を中途退学してその後のキャリアに難しさを抱えたりする人も少なくない。

例えば、育て上げネットの支援機関に来所する若者のうち、最終学歴が高校中退の人が占める割合は3.8%、専門学校中退は3.4%、大学等中退は10.9%、合計約18%が中途退学者である。(育て上げネット『若年無業者白書2014-2015-個々の属性と進路における多面的分析』

より多くの支援機関を対象にした調査では、来所者の4割もの人が過去に不登校経験があると回答している。(宮本みち子「若年無業者と地域若者サポートステーション事業」,2015

そこで、本稿では、①なぜ高校中退・不登校するのかの理由・背景、②中退・不登校の「その後」に待ち受けるリスク、③一人の高校生の中退後の物語、を見ていくことにする。

 

◆年5万人の高校中退と不登校


10月17日に発表された文部科学省『児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果(平成30年度)』によると、

高校の中退者は、ここ20年は数としても割合としても減少傾向だったが、平成29年度から30年度で微増した。毎年5万人前後の生徒が高校を中途退学する。(なお、中途退学後に別の高校に編入した者は数に含んでいるが、いわゆる「転校」した者は数に含まない。)

高校生の不登校は、長期的には横ばいだが、ここ数年は増加傾向である。こちらも不登校同様に、毎年5万人前後が不登校状態を経験している(年を跨いで不登校状態の生徒を含める)。

 

◆中退の背景にあるもの


前述の調査では、中退・不登校に関して学校側が回答した「理由」もまとめられている。しかし、それらは学校生活の不適応、学業不振、進路への不安、進路変更など、漠然とした選択肢になっており、より細かな状況を理解するには物足りない。そこで、中退時の状況を、中退した本人に聞いた調査(『都立高校中途退学者等追跡調査』,平成25年)を参照する。

グラフから、「遅刻や欠席などが多く進級できそうになかった」、「通学するのが面倒だった」、「精神的に不安定だった」という回答が多いことが分かる。

また、回答結果からは、いじめ、貧困、病気・障害、家庭問題(虐待/家族の病気・介護・世話等)等、中退という結果に影響した様々なバックグラウンドが想像される。

大人が仕事を辞める時と変わらず、高校生も色々なものを抱えている。そういった中で、一定数がネガティブな気持ちや態度で高校を中退していくことがうかがえる。

さらに、同調査では、中退時に、家族にも先生にも友人にも、誰にも相談しなかったという人が2割弱いたことも明らかにしている。

ここでは中退を例に挙げて、その状況・背景を見たが、そうして困難を抱えたまま、さらに相談する相手もなく社会との接点を失っていった先には更なる困難が待っているケースも多い。

 

◆中退・不登校と「ひきこもり」「無業」「不安定就労」


若年のひきこもりに関する内閣府の調査によると、「ひきこもり」の状態になったきっかけへの回答として、「不登校」という回答が最も多い。

(『若者の生活に関する調査報告書』平成28年9月 内閣府政策統括官(共生社会政策担当)23【本人票】ひきこもりの状態になったきっかけの項より作成)

 

また、前述の『都立高校中途退学者等追跡調査』によると、高校中退後、無業状態にある人も一般に比べて多かった。加えて、主に仕事をしている者の中でも非正規就労の割合は約85%に上る結果となった。

(『「都立高校中途退学者等追跡調査」報告書』平成 25 年3月東京都教育委員会より引用)

これらの調査は、不登校・中退の「その後」に実際に待ち受けている困難の一面を示していると言えよう。

 

中退や不登校等により学校を離れた時、その生徒が友人内や家庭で孤立してしまう、あるいは、反社会的なつながりを持ってしまう、一方、家庭内では保護者もどう関わっていいか悩み、(それまで先生に相談していたとしても)相談先がなくなってしまう、そうして「ひきこもり」「無業」「不安定就労」になり、どうにかしたいと思っていても、どこからどうしたらいいのか、社会の「壁」の前に立ち尽くしてしまう若者がいる。

そういった若者を支援するために、地域若者サポートステーションなどの支援機関は存在しており、その結果が、支援機関来所者の2割が中退経験者、4割が不登校経験者という数字にも表れている。

しかし、可能ならば、より早い段階で、深刻な状況に陥る前に、社会のセーフティーネットにつながることが望ましいのではないか。

そうした目的の下、スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーなどの拡充が進められ、学校内での対策も進んでいるが、学校内だけですべてを対処しようとしても限界がある。

その中で、「学校外」の担い手として、様々なNPO等による地域での取組も進んできており、育て上げネットでも特に高校との連携を進めている。

 

◆問題を起こして高校中退した彼を待っていた「大人」とは


育て上げネットにおいても、高校を中心とした教育機関との連携の中で、「中退後リスク」に対応した一つの例を紹介したい。
その生徒がいた高校との連携で窓口となっていた支援スタッフはこう振り返った。

 

 

-その生徒は分かりやすく言えば、「問題行動」の見られる生徒でした。
高校の先生から「ある1年生の男子生徒について困っていて、相談したい」と電話があり、学校を通じた調整の上、その生徒の親御さんとの面談から支援は始まりました。

-親御さん曰く、「遅刻、無断欠席が多く、学校への提出物などもよく忘れていて、困っている。本人に遅刻・欠席について注意したり、進級や卒業について考えているのか話してみたりしても、イライラした様子で、もう何も言っても聞いてくれないし、言うこっちも疲れてしまう。」
そこで、家庭でのお子さんとの接し方などについて提案したり、何かあった時には電話で相談を受けたりなど対応していました。
しかし残念ながら、数ヶ月後、学校の人間関係でトラブルがあり、中退することになったと連絡がありました。

-その生徒が信頼を寄せている先生からの後押しもあって、中退後はすぐに私たちの支援機関に来所してくれました。
来所した彼はとても明るい印象で、エネルギーが落ちている、というよりは、持て余しているという印象でした。今までアルバイト含め仕事経験や仕事について考えたことはなかったものの、仕事への意欲は高い状態でした。

-そんな彼には「習うより慣れよ」でどんどん仕事体験・職場見学に参加を勧めました。
規則的な生活リズムを整える必要もあったので、定期的な来所を促したら、最初の一か月はほぼ毎日のように来所していました。
やはり時折無断欠席などがあったりしたため、丁寧に「なぜ遅刻や欠席の際に連絡するのか、この場合はどんな困りごとが起こるのか」をきちんと説明していくようにしました。

-そうこうして、中退・来所してから3ヶ月。職場体験先の一つ、地元のクリーニング企業での採用が決まりました。
就職してからも定期的に会いに行ったりしていますが、半年たった今も元気に働いています。遅刻癖はそう簡単には直らないようですが(笑)

-先日久しぶりにうちの支援機関に顔を出した彼はこう言っていました。
「学校も本当は辞めたくなかった。だから、いざ中退が決まったら何をどうしたらいいのかさっぱり分からなかった。そういうときに、先生から紹介されてここに来て本当によかった。楽しかったし、通うところが出来て、やることも目標もできた。もしあのまま家にいたらきっと今でもろくなことしていないんじゃないかな(笑)」

 

 

軽い口調だが、彼の言葉は重たい。お金や仕事、居場所に困った時、手を差し伸べる「大人」が必ずしも助けになろうという人ばかりではない。「稼げるバイトがある」というネット上での誘い文句から、特殊詐欺の「出し子」「受け子」などの犯罪に手を染める例も多い。

 

この事例では登場人物がそれぞれ一人の生徒のため、「大人たち」がいわばチームとなって動いている。問題を発見した学校の先生が自分一人で解決しようとせず、保護者の話を聞き、外部機関に相談し、家庭では保護者が基盤として支え関わり、その基盤の上に、外部機関の支援スタッフが専門的な生活相談・キャリア相談を行い、地元企業が職場体験等の場を提供し、人材育成しながら雇用し、その後も自立に向けて継続的に支援スタッフと企業が連携して当人に関わる。

 

「学校だけでなく、社会全体で生徒を支える」という一つのあり方がそこにあるように思う。

 

 

(執筆:育て上げリサーチ)

 

※本記事は、育て上げリサーチからの抜粋です。全文はこちらのシリーズ記事をお読みください。

 

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