10月11日は、「国際ガールズ・デー」です。差別や危険にさらされる途上国の女の子たちの実態を、皆さんは知っているでしょうか?
世界の非識字人口の約3分の2が女性(※1)だというデータが発表されています。また、途上国では約3人に1人の女の子が18歳未満で結婚(※2)。15~19歳の女の子のうち、15歳以降になんらかの身体的暴力を受けたことがあると回答した女の子も、約4人に1人(※3)いると言われています。
(※1:The World’s Women 2015 Trends and Statistics (United Nations, 2015)より)
(※2:Marrying Too Young (UNFPA, 2013)より)
(※3:A Statistical Snapshot of Violence Against Adolescent Girls (UNICEF, 2014)より)
そんな女の子たちへの投資を呼びかける国際NGOがあります。イギリスに本部を持つ、国際NGOプラン・インターナショナルです。21の支援国が、アジア、アフリカ、南米など途上国51カ国で活動を行っています。これまでに4,000万人を超える人々を支援。住民たちの自立を促す活動を続けています。
日本も支援国の1つ。プラン・インターナショナルは、東京の三軒茶屋にオフィスを構えています。プログラム部部長の馬野裕朗さんは、2012年からプラン・インターナショナルの支援に関わっています。教育開発が専門の馬野さんは、フランス語力を活かして西アフリカのフランス語圏の国々を中心に様々な教育支援に携わってきた経験を持っており、現在はプラン・インターナショナルの活動国51カ国の、プロジェクトの案件形成・運営管理を行っています。「一生をかけて取り組む価値がある」、国際貢献は馬野さんの信念です。
馬野さんに、途上国の女の子を取り巻く環境と、プラン・インターナショナルが実施するプロジェクトについてお話を伺いました。
■「女性やマイノリティへの差別を削減していくことが、社会の発展へと繋がる」
Q、途上国に暮らす女の子たちは、具体的にどのような状況にあるのでしょうか?
馬野)
今の貧困はどこにあるか、背景に何があるか。大きく2つあると考えています。
1つは、紛争も含めた人災と天災。例えば、アフリカで象徴的なのは、紛争が多いこと。紛争さえなければ、ささやかながらも貧しいながらも毎日生活ができている地域がある。でも、そのささやかな生活が、紛争で一気にゼロになって、難民化せざるを得なくなる。内戦というと、規模の大小関わらず、隣の人が斧やナタを持って、ずっと一緒に生活してきた人を殺そうとするということです。それで生き延びたとしても、もうショックでそこには住み続けられず、家族と一緒にどこかに行かなければならなくなる。また、地震、洪水などの自然災害によって、今までの生活が一瞬で壊され、何もない状況でその場を去らなければいけなくなる。
もう1つは、差別。障がいや特定の病気などに対する差別。人種差別や宗教差別などの政治的な差別。そうした差別によって、例えば支援がたくさんあったとしても、差別されている人には落ちてこない。地域の中から排除され、社会的、経済的に参加することからも排除されてしまっている。苦しい負のサイクルに陥ってしまっている。
その差別の1つに、女性への差別があります。これは途上国に限っての話ではなく、日本でも女性への軽視や、男性よりも肉体的にも精神的にも劣っているという刷り込まれた差別的で不平等な男女の役割分担がある。日本でもあるけれど、やはり僕たちが活動しているアジアやアフリカなどの途上国ではより多くある。それが、女性が貧困の連鎖に釘付けにされてしまっているという大きな理由でもあります。
例えば、家事の分担。掃除、洗濯、食事の準備などの家事の役割分担が女性に集中している。
あるいは、食事の順番。男性が食べ終わってから、女性が食べる。
あるいは、発言権。家計については世帯主の男性が全部決めている。定期的な村の集会でも、女性は参加はしているけれど、発言したり物事を決めたりするのは長老などの男性。女性の意見が反映される環境が、家の中でも地域の中でもなかなかない状況がある。
あるいは、女性の人生の大事なタイミングを自分で決められない。毎日楽しく学校に行っているにも関わらず、ある年齢になると、「もうお前行かなくていい。下の子のケアも家事もあるでしょ」「学校行かなくていいから、隣村の〇〇さんと結婚して」と、学校を辞めなければいけなくなる。女の子は、「勉強したい。結婚したくない」と言えない状況。
決めるのはお父さんや地域の男性で、それに従わなければならないということが当たり前の、刷り込まれた役割分担があるのです。それが女性の貧困の要因になっているだけではなく、家族全体の貧困の原因にもなっている。あるいは、地域がこのような男女の役割分担を強いてしまっていることによって、その地域が貧困から脱出する際の大きなハードルになってしまっているということが統計的にも分かっている。プラン・インターナショナルでは、女性やマイノリティへの差別を削減していくことが、その家族、地域、社会の発展へと繋がっていくという確信を持って活動しています。
■西アフリカ・ベナン 貯蓄貸付組合と養鶏で10代の女の子に生きる力を
Q、プラン・インターナショナルさんが実際に行なっているプロジェクトには、どのようなものがあるでしょうか?
馬野)
西アフリカ・ベナンでのプロジェクトを紹介させてください。ターゲットになっている地域は、やはり女性の地位が低く置かれています。日本でいう小学校高学年、中学校レベルで、「もう学校はいい、家庭に入れ。家事をすればいい。結婚しなさい。」と、多くの女の子が10代で結婚し、さらに出産をしています。そこで、10代の貧しい環境にある女の子をターゲットにしたプロジェクトを実施しました。そこでやっていた活動は大きく2つあります。「貯蓄貸付組合(Village Saving and Loan Association )」と「養鶏」です。
貯蓄貸付組合では、10人の女の子が1つのグループになって貸付組合のやり方を学びます。毎週一定の金額、例えば日本円で10円、50円という彼女たちが出せる金額を、毎週みんなで共通の財布に入れていきます。1,000円、2,000円、3,000円とある程度貯まった時に、順番にそれが貸しつけられる。そのお金の使い方を、女の子たちは色々と考えていました。例えば、食材をまとめて買って、サンドウィッチなどを自分で料理し、学校や大人たちが働いている場所の近くで、スタンドを置いて販売する。その収益で継続的に商売を続けるとともに、多少の金利とともに借りたお金を共通の財布に返す。あるいは、麦をまとめて買って、製粉所で粉にして、小分けにして販売し、収入にするという子もいました。アイデアがすごくたくさんあるなというのが発見でした。また、決まった期限にちゃんと返すというのが、もう1つの大きな発見でした。
養鶏では、それぞれのグループに、雄鶏と10匹の雌鶏、養鶏のカゴを提供し、餌の作り方、病気にならない方法を伝えます。そうして鶏を育て、卵を市場で売って収入にします。
貯蓄貸付組合で商売を始め、ちゃんとお金を返し、さらに養鶏で収入を得る。それを、周りの人は見ているんですね。周りの女の子だけではなく、男の子も、大人も見ている。ある女の子から聞いたのが、「お父さんが自分から『手伝ってあげようか』って言ってくれた」、「男の子の友達に、『やり方を教えて』って言われた」。今までは全部受け身で、「〇〇やれ。言ったようにしていればいいから」と言われていたのが、「教えて」、「手伝ってあげるよ」と言われた。そういう言葉が女の子にものすごい影響を与えた。僕がそこで女の子から聞いて1番びっくりした言葉が、「自分を大事に思えるようになった」、「家族に、地域に貢献できるんだ。私でも、私みたいな人でも貢献できるんだと思った」。そういう言葉を聞いて思ったのは、彼女たち自身の中で、自分の「尊厳」というものを感じているということでした。
■パキスタン・ディアメール郡 女性の識字率2%の地で女の子の公教育を
Q、他にはどのようなプロジェクトがありますか?
馬野)
もう1つの例として、パキスタンの現場もあります。パキスタンは、地域にもよるのですが、特に北部は原理的なイスラム教の文化が根付いています。活動を行っているパキスタン北端のギルギット・バルティスタン州ディアメール郡は、行政もほとんど入れない閉鎖的な地域ですが、そこで活動しているローカルパートナーとの連携により、活動を許されました。そこでは、僕もびっくりしたのですが、女性の識字率が2%(※4)。男性でも30%(※5)で、ほとんどの人が読み書きできませんでした。行政も入れないので、公教育もほとんどない地域です。そこで私たちは、女の子への公教育を導入しようというプロジェクトにチャレンジしました。
(※4:UNICEFのレポートによると、2016-2017年度で、10歳以上の女性の識字率は11.9%に回復。http://www.gilgitbaltistan.gov.pk/downloadfiles/PDD/MICS_GB_1617.pdf)
(※5:UNICEFのレポートによると、2016-2017年度で、10歳以上の男性の識字率は46.4%に回復。http://www.gilgitbaltistan.gov.pk/downloadfiles/PDD/MICS_GB_1617.pdf)
しかし、いきなり学校を建てるということもできない。日常的にイスラム教の精神を学びに通う女性用のモスクがありましたので、そこを活用して公教育を一部導入することとしました。「イスラム教がルール・法律である」という地域ですので、そこで統括していらっしゃるイスラム教の宗教指導者に常にそばにいてもらいながら、お伺いを立てながら進めていくという約束で始めました。
現地で話されている言葉の読み書き、算数、そして、英語を学びます。女の子達も学びたいという潜在的な欲求があったのだと思いますが、グイグイ学んでいきました。パキスタンでは毎年、学年が上がる際にテストをして、合格点だったら次の学年にいけるというルールになっています。最初の段階で女の子たちを学年のレベルで分け、それぞれの学年でちゃんとそのテストを受けさせてあげられたそうです。すると、合格率が70%以上。ほとんどの女の子が、限られた状況の中で、限られた学ぶ時間の中でやってきた。家でも勉強したのでしょうね。それを見て、女の子たちの親も喜んだのでしょうね。活動をやり続けていくと、ターゲットになったイスラム寺院で、女の子の人数がわーっと増えました。今までに行かなかった女の子が行き始めたということに加え、他の寺院に行っていた女の子たちがその寺院に行き始めたのです。女の子たちが自発的に行ったということはあり得ません。親たちが話を聞き、「うちの娘たちも行かせたい」となったのでしょう。断言はできないけれども、親たちも心の中では、公教育を男の子も含めて子どもたちに学ばせたいのだろうなということも感じました。
また、そこの宗教指導者の動きもすごかった。ほとんどコミュニケーションを取らない行政の人々に直接掛け合って、「続けさせてください」「他の県、他の州でもやりたい」と言ってくれたということを、パキスタン側から聞いて驚きました。
パキスタンで識字を学んだ女の子が、家で行政から来る手紙を読んであげると、親は「助かるな。識字って大事だな」と学ぶ。自分たちの枠からはみ出たことでも、大事なことは取っていきたいということもある。一方で、新しいことで受け入れ難いということもあるかもしれませんが、それも体験しながら変わってきて、「大事かもしれないな」と1年、2年、5年、10年経って思えるようになってきたら、その地域の差別なり、生活環境なり、変わる可能性はあるなと思っています。だから僕たちが、枠からはみ出たことを入れる、提案する役割というのはすごく重大だなと思っています。
■支援者と活動地を繋げるプラン・スポンサーシップ制度で、柔軟で長期的な支援を
Q、日本にいる私たちには、何ができるでしょうか?
馬野)
僕たちが今1番お願いしているのが、「プラン・スポンサーシップ」という支援の形です。毎月3,000円からの継続寄付による支援です。「プラン・スポンサーシップ」は地域を底上げする支援なのですが、「スポンサー(支援者)」1人に対して、地域の代表としての1人の「チャイルド」を繋げます。スポンサーの方には、そのチャイルドとの手紙によるコミュニケーションで、子どもたちの成長の様子を見ていただきます。また、そのチャイルドのいる地域の変化や活動の報告をします。子どもたちは、家族や地域の変化、改善の影響を確実に受けます。子どもの変化は、地域の変化でもある。それを知っていただきたいと思います。スポンサーの方達と僕たちが活動している地域を繋げる努力を、プラン・インターナショナルでやっています。
スポンサーシップによる継続寄付があることで、「みんながお互いに大事にし合える環境、慎ましいながらもちゃんと生活できる環境を作っていく」という私たちの目標に向けて、長期的なコミットで柔軟に対応しながら支援ができる。それが「プラン・スポンサーシップ」の1番の強みです。
慣習は一朝一夕では変えられないので、細くても長くやっていく必要がある。それができるのが、「プラン・スポンサーシップ」です。プロジェクトベースで寄付を集める方法もありますが、プロジェクトには期限がある。例えば3年間毎日のように「〇〇をやめましょう」と啓発をすると、村の人は「やめた方がいいよね」と頭では思うかもしれない。でも、慣習として、本人の納得感を持って行動を変えるには、3年では十分でないこともある。
例えば結婚の話。なぜかというと、それは家族の名誉に関わることだからです。「本当は結婚させたくないなぁ」とか「命に関わる若年妊娠はさせたくないな」と思っているかもしれない。でも地域の中にあって、10代後半になって結婚しない女の子がいるということが恥ずかしいと、結婚をさせてしまう。また、例えば、女性器切除の話。自分の娘が10代後半になっても女性器切除をしていないと、危険だと分かっていても、「でも自分の娘だけやらせないと恥ずかしい。結婚できないかもしれない」とやらせてしまう。
「内発的な気づき」は、継続的な発展のために最も重要な起点であると、僕たちは考えています。プラン・インターナショナルの支援は、そのための側面支援です。僕たちはよく「同心円」を描いています。子どもたちが中心にいて、その周辺に家族がいて、その外にコミュニティがいて、その外に行政やローカルNGOがいて。僕たちは直接子どもや親に支援するのではなく、例えば、子どもたちが自分たちをキャパシティービルディング(ある目標を達成するために必要な能力を構築・向上せること)できるように支援する。親が子どもたちをサポートしようとする努力を側面支援する。コミュニティが、子ども、親、コミュニティ全体を自分たちで良くしていこうとする取り組みを側面支援する。行政がコミュニティをサポートしようとする努力を側面支援する。ローカル NGOが行政や地域社会をサポートしようとする頑張りを側面支援する。このように地域レベルでの「自助努力」を支援するということです。でもそれは「言うは易く行うは難し」で、継続性が1番大事です。持続していくためには、当事者である子どもたち、親、コミュニティ、行政、 ローカルNGO、それぞれが、「それをやりたい。それをやったら自分たちは良くなっていく」ということを感じる、その気づきや発見のきっかけになりたいということが、プラン・インターナショナルの支援の根っこ。それが出来なければ、ただやって、去って、終わりとなってしまう。
2015年時点で、世界の全人口の約83%が「途上国」と呼ばれる国に住んでいます(※世界人口推計2017年改訂版より)。世界の人たちを無作為に10人集めたら、8人は途上国の人たちです。途上国というのは、精神的にも物理的にも遠い国かもしれないけれど、生活の中では本当に身近な存在です。社会のこと、途上国、世界のことを皆さまとともに一緒に知って学んでいけたらと思っています。