国際協力子ども教育

【子ども支援】クリエイティブの力で途上国の子どもたちを育てたい

日本のアニメーションの力が、途上国の社会問題解決にも大きく寄与し始めています。

株式会社GARDEN代表で、市民メディア「8bitNews」を主宰する堀潤がdTVチャンネルで毎週月曜夜に放送してきた「NewsX」にて、プノンペン在住のクリエイターで「一般社団法人Social Compass」代表の中村英誉さんをお迎えし、アジアを中心に活躍する中村さんのクリエイティブの力についてお話を伺いました。

「一般社団法人Social Compass」代表・中村英誉さん©︎一般社団法人Social Compass

■啓発動画を「アニメーション」で「おもしろく」

堀)
中村さんがチームで手がけている作品は、「社会貢献×アニメーション」をコンセプトに、例えばカンボジアの子どもたちの教育支援などに繋がっているんですよね。「Social Compass」設立のきっかけを教えてください。

中村)
そうですね。啓発動画ってなかなかおもしろいものがないのですが、せっかく日本人はアニメーションを作る能力もあるので、おもしろい啓発動画や教育用のコンテンツを作っています。パソコン一台でどこでも仕事ができるので、もともと最初はノマドワーカーみたいな感じでデザインやアニメーションの活動をしていたのですが。やはり、カンボジアじゃないとできないことをやっていかないとカンボジア住んでいる意味もないなと。カンボジアの社会問題や貧困問題もあり、ボランティアでくる学生もたくさんいたり、JICAやNGOの人たちもおもしろい人が多かったり。そういう人たちと仲良くさせてもらう中で、「彼らと一緒に何かができないかな」と思った時に、僕ができることってやっぱりデザインだけ、アニメーションだけだったので。それで立ち上げたのが「Social Compass」という団体でした。

堀)
中村さんが制作されているアニメーションを見せていただいてもよろしいですか?

中村)
はい。これは、カンボジアのキャラクターコンテンツです。アンコールワットのゆるキャラ「ワッティー」と、プノンペンに来た人しかわからない「インデペンデンスモニュメント」のゆるキャラ「インディー」を使い、「クメール体操」のコンテンツを作らせてもらいました。カンボジアは、ポル・ポト政権時代の内戦という悲しい歴史を持っているのですが、学校の先生はその内戦で虐殺されてしまったんですよね。昔は体育教育で学校の先生が体操を教えていたのですが、これが途絶えてしまった。日本のNGOが体操をもう一度教科書に載せる活動をしていたのですが、やはり体操を静止画で見ても分からないので、アニメーションにして啓発していこうという活動をさせてもらっています。

また、カンボジアと言うと、来た方は皆さん感じると思うのですが、道端がゴミだらけ。そのゴミにハエや蚊が溜まって、そのハエや蚊が病原体を連れてくるという因果関係すらもちゃんと理解していないんですよね。そういう意味で言うと、「ゴミをなぜ捨てちゃだめなのか」、「ゴミは一体何なのか」ということを教育するコンテンツも作りました。

日本の財団と一緒に、バイクの交通安全啓発動画も作っています。

こちらは逆に、BLS(basic life support=1次救命処置)についての動画です。カンボジア人は、心臓マッサージのことを知らないんですよ。溺れた時には「ひっくり返して振ると良くなる」「気絶している人のかかとを噛むと目を覚ます」などの民間療法や迷信みたいなものを未だに信じていて。保健省の偉い人でも知らなかったりする。心臓マッサージは結構強くやるので、逆に殺しているように見えて、周りに止められたり、リンチにされてしまったり。やり方を教える前に、「心臓マッサージなどの治療はいいことなんだ」と知ってもらわないといけないということで、日本のNGOと一緒に作らせてもらいました。


■「自ら描いた絵が動き出す」参加型のワークショップも

堀)
アニメーションを作るだけでなく、主体的な関わりもされているんですよね。

中村)
はい。アニメーションのワークショップをやっています。最初はカンボジアでやっていたのですが、ミャンマーやラオス、最近だとアフリカのルワンダでも。ルワンダはカンボジアとすごく似た歴史を持っています。虐殺もあって、国土も狭くて、資源も少ない。最近、ポール・カガメ大統領がITC教育にかなり力を入れていて、アニメーションを教える活動を行なっています。みんなスマホで見たことがあって何となくアニメーションを知っているのですが、作ったことはないので前のめりでやってくれる。自分で作ったキャラクターを切り抜いて、1コマずつ撮影していく。すごくシンプルなことなのですが、アニメーションってそれが全てなんですよね。

Animation Workshop in Rwanda

Mr. Heng Kakada is also a social compass member, compiled the animation workshop in Rwanda, Africa.アフリカ・ルワンダでのアニメーションワークショップの様子です。ルワンダの首都のキガリからバスで一時間程行ったムシャ地区の小学校で、五年生を対象にアニメーション作りを行いました。学校ではあまり図工や美術の教育は行っていない様でしたが、みんなとても上手で個性溢れるアニメーションを作ってくれました。ご覧ください!

Social Compassさんの投稿 2019年3月10日日曜日

また、JICAと共に「Eco City Project」を開催しました。カンボジアの首都・プノンペンの地下に、JICAが日本のODA(政府開発援助)で作った洪水対策の貯水タンクがあるのですが、排水口にゴミが溜まってしまうとこの施設が止まってしまう。それを啓発するために、子どもたちが描いた絵をプロジェクションマッピングで地下の貯水施設の中で投影しました。最初は、ワッティーがゴミを捨ててしまったせいで足元にゴミが落ちているという絵から始まります。そこに雨が降り出すと水が溜まって子どもたち溺れてしまう。そこに子どもたちが描いた魚が現れる。ゴミが落ちてくると、ゴミがモンスター化して水が真っ黒になり、魚がいなくなってしまう。その汚い水からフルーツや花が咲くのですが、それって本当に大丈夫かなと。カンボジアの農業って汚い水でどうしてもやらざるを得なかったりするのですが、それも考えてもらって。ワッティーが反省してゴミを分別すると、ハエや蚊がいなくなって病原体もいなくなる。そうすると、夜空もより綺麗になる。最後は、子どもたちの描いたアンコールワットを中心に、動物や植物や人間が共存する世の中を作ろうというストーリーにしています。

それ以外に、クイズコーナーもやりました。「プノンペンで1日に出るゴミの量はゾウ何頭分でしょう」「このゴミの山はあと何年でいっぱいになるでしょう」などの質問で、「正しいと思う所に集まれ!」と日本のクイズ番組のように体を動かせるクイズコーナーを大画面でやらせてもらいました。答え合わせをすると、地下なのでマンホールが揺れるくらいみんな喜んでくれました。啓発をして外に出ていくと、まるで準備されていたかのように川沿いにゴミが広がっているんですよね。それを、アニメに出てきたワッティーと一緒に拾うと、内容もちゃんと理解できる。「ワッティーと一緒に現実の世界でもゴミを拾おう」という着地点でやっています。

堀)
自分で描いた絵が自動的に動き出すということはなかなかないですよね。ゴミが水を汚すし、食べ物も害しちゃうから、一生懸命拾おうという気持ちになるんですね。

中村)
はい。しかし、他の国でもこういう活動しようと思った時、ミャンマーやアフリカにはこういう地下施設はないので、「プラネタリウムを作ろう」と。環境問題って「僕たちの地球を守ろう」というのがコンセプトになることが多いですが、田舎の子どもたちはまず「地球が丸い」ということすら信じてなかったりする。「夜空の星が何か」も分かっていない。西洋星座を学ぶドームではなく、子どもたちの世界を丸い紙に描いてもらって、それが大画面に映し出される。ドームを作れたのはまだカンボジアだけなのですが、インタラクティブなプラネタリウムの企画をいろんな国に展開できたら楽しいなと思っています。

堀)
このプラネタリウムは、組み立てて設置ができるものなのでしょうか?

中村)
はい。カンボジアで手に入る、1本(3 m)80円の配電管を使っています。カンボジアで手に入る素材で作ったドームを友人に設計してもらいました。マーケットに行って、いつも服を作っているローカルの縫い子さんにスクリーンを作ってもらいました。


■最先端のノウハウを持つ先進国だからできること

堀)
つい先日まで、中村さんたちのアニメーション動画が国営の放送局で毎朝のように放送されていたんですよね。

中村)
月〜金の朝6時50分から放送されていました。意外に、途上国の子どもや親たちはスマートフォン持っていて、YouTube を見ているんです。でも、カンボジア語のコンテンツや、その国の言語のアニメーションってなかなかない。良くも悪くも、マーケットの端っこで、おそらく意味も分かっていない音楽や、アメリカのアニメーションを見続ける時間があるのであれば、ちょっと意味のある、ちょっと理解ができるコンテンツを発信していければ違うのかなと思っています。やはり、カンボジア語で作ったアニメーションを見せるとみんな100%理解できるので、口を開けて真剣に見てくれますね。

堀)
アニメーターとしてこういう関わりがあるんですね。でも、どうしてそこまでカンボジアに魅せられて、カンボジアの子どもたちのために活動をしようと思ったんですか?

中村)
そうですね。日本はコンテンツが溢れていて、作っても消費されてしまう。でも、カンボジアは内戦時代に芸術家も殺されてしまって。何をやってもパイオニアになれる。クリエイター冥利に尽きる国だなと思いますね。やっぱりカンボジアの子どもたちは真剣に見てくれるので、すごく楽しいですね。

堀)
僕も昨年末「日本国際ボタンティアセンター(JVC)」の取材で、カンボジアのプノンペンやシェムリアップ、周辺の村などにお伺いしました。やはり、内戦の爪痕で、固定化された階層社会があったり、知識や技術が不足していたりする中で、先進国の関わり方がすごく問われていますよね。

中村)
はい。カンボジアは特に、「チャリティー」や「ボランティア」という言葉が発祥した国の1つだと思います。アフガニスタンやアフリカなど、もっと支援していかないといけない国々が多くあり、カンボジアがうまく次のタームにいかないといけない中で、なるべく最先端のノウハウをカンボジアの子どもたちと一緒にマスターしていけた方がおもしろいんじゃないかなと思って。

堀)
今でこそ「SDGs(持続可能な開発目標)」が提唱されるようになって「持続可能な社会を作っていこう」という時に、先進国が培ってきたものをもう一度シェアして還元する、そういうバランスの良さが求められているんだろうなと思います。中村さんは「SDGs」に関しても提唱されていますよね?

中村)
そうですね。「SDGs」も、17項目を全部キャラクターにしました。「SDGs」って分かりづらいと思うんですよね。キャラクターを作ってより分かりやすいストーリーにして広めていけば、もしくは、もっといろんなクリエイターが「もっとこういうキャラクターがいいんじゃないか」と競い合えるようになれば、西洋にはできない「SDGs」の広め方になるんじゃないかなと思います。

©︎一般社団法人Social Compass

■「世の中は『オモシロい』から変わっていく」

堀)
子どもたちの反応はいかがですか?

中村)
すごく喜んでくれますね。単純に「楽しかった」と言います。日本の進出企業の皆さんがワークショップをすると、「遅刻が多くて真剣にやらない」と言う社長さんが多い。僕たちもカンボジアでワークショップを行うのですが、誰も遅刻しないどころか、1時間前ぐらいに集合してしまう。やはり、おもしろいことはみんな真剣にやるし、おもしろいことに遅刻する人っていないんですよね。

堀)
カンボジアで活動を始めて、振り返れば8年間だったと思いますが、気づきはありましたか?

中村)
僕らは「社会貢献×デザイン・アート」というコンセプトでやらせてもらっているのですが、「ボランティア」や「NGO」をやらせてもらっていると「偽善なんじゃないか」と言われることもあります。でも、はっきり言えるのは、僕らがおもしろいからやっている。それがおもしろいついでに、子どもが喜んでくれたり啓発になっていたりするというのがデザインの醍醐味。1個の行動に2つの意味があるというのは、僕らも考えていて楽しい。それが世界を良くするのであれば、すごく楽しいじゃないですか。やっぱり世の中は「オモシロい」から変わっていくんじゃないかなと思っていて。おもしろいことをやって世の中がおもしろくなっていったらいいなと思って最近やっていますね。

堀)
これから、さらにどんなことやっていきたいなと思っていらっしゃいますか?

中村)
そうですね。最近、日本で老人向けのワークショップをやっています。日本の介護業界ってなかなかお金を稼ぎづらい仕組みで、やりがいがなくなってしまっていて。老人と一緒にアニメーションを作れたらおもしろいんじゃないかなと。

【初!デイサービスでアニメーションワークショップ Animation Workshop in Japan】*English below4月に日本のデイサービスで行ったアニメーションワークショップの映像ができました!テーマは「春」今回は横浜根岸にあるツクイ様にご協力をいただき、30人の方々と一緒にコマ撮りアニメーションを制作。みなさん和気あいあいとした雰囲気で楽しんでくれました。これまで、カンボジアの田舎で子どもを対象に行っていたワークショップ。今後は、東南アジアの子どもたちともコラボできたらいいなーと妄想しつつ、アニメーションで世界を繋げていきたいと思います!We did Animation Workshop for Japanese old people. They created really excited animation with us. Please watch this video!

Social Compassさんの投稿 2018年5月9日水曜日

また、実はデザインのソフトウェアは簡単になってきているので、日本の若者がカンボジアに来て一緒にデザインを学ぶ「ソーシャルデザインキャンプ」を考えています。学校の校舎って、カンボジアでも感じるのですが、あまり意味がない。学校で一番足りていないのは、学校の先生やカリキュラムの内容。日本も一緒で、校舎は立派ですけど、学校の先生がちょっと疲弊している。そういう意味で、もっと移動しながら、カンボジアに来て僕らと共に学ぶようなコースができたらいいなと思って、今準備してます。


※報告会イベントのお知らせ

2019年7月12日(金)、都内にて、「一般社団法人Social Compass」の活動報告「Social Compass Meet Up -社会課題×アート・デザイン-」が開催されます。ご関心のある方は、ぜひご参加ください。

【日時】2019年7月12日(金)19:00〜21:00
【場所】ROUTE BOOKS (https://route-books.com/)
【住所】東京都台東区東上野4-14-3 Route Common 1F
【参加費】大人2,000円、学生1,500円 *ワンドリンク付き
【定員】45名(定員に達し次第、締切らせていただきます)
【参加方法】*事前申込み制
① お名前、②ご所属、③連絡先を明記の上、info@socialcompass.jpまでご連絡ください。

©︎一般社団法人Social Compass
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