https://youtu.be/2pl5vUxftf8
10月4日の「世界動物の日」に合わせて、公益財団法人「世界自然保護基金ジャパン(WWFジャパン)」が始めた「#ANIMAL_SELFIE」キャンペーン。絶滅危惧種の動物たちが「セルフィー(自撮り)」をしている様子をInstagramを通して発信しています。
堀潤がキャスターを務めるdTVチャンネル「NewsX」にて、「WWF #ANIMAL_SELFIEプロジェクトチーム」の河村翔さんと江上さくらさんをお迎えし、このキャンペーンの狙い、動物たちが置かれている現状、そしてWWFの支援の形についてお話を伺いました。
■動物たちが”自ら”環境問題を発信「#ANIMAL_SELFIE」
堀)
「#ANIMAL_SELFIE」、ものすごくユニークな取り組みですね。具体的に教えていただけますか?
河村)
WWFは環境保全の様々な問題に取り組んでいるのですが、日本で「環境問題」「絶滅に瀕している動物」と言っても、なかなか振り向いてもらえず、興味を持っていただきにくい。これまでも色々な手法を取って、少しでも興味を持ってもらおうとやってきました。今回は、近年当たり前になってきている「Instagram」を使って動物にセルフィーをやってもらうことで「環境問題を身近に感じてもらえれば」という思いが発想の原点なっています。写真自体は全て合成ですが、動物の後ろに写っている「浮いているゴミ」などは、全て今実際に起きている環境上の問題です。「フェイクだが、後ろに写っているのはフェイクではない」というメッセージを込めています。
堀)
この取り組みについて江上さんが私に連絡を下さって、すぐに食いつくように一枚一枚拝見しました。というのも、動物たちの後ろに写っているのは社会問題なんですよね。
江上)
はい。今回、「動物たちが自ら発信している」というのがすごく大事。「私たちが動物にお願いしてやってもらっている」という設定にしています。セルフィーってすごく身近ですよね。「動物たちがそのセルフィーをせざるを得ないほど大変な状況なんだよ」ということを訴えています。
堀)
今、国連でも「SDGs(持続可能な開発目標)」を掲げています。特に先進国が、経済発展のためにこのまま過剰な開発を続けるなど自然環境を犠牲にしていくと、いつか自然が破綻してしまう。私たち人類だけでなく、その影響は先に自然環境に及んでいく。すなわち、そこで暮らす動物たちに多大なる負荷を与えることになる。「今考えないと」というタイミングですよね。
河村)
そうですね。本当にそうだと思います。例えば、「#ANIMAL_SELFIE」の中にもある「アカウミガメ」。「#(ハッシュタグ)」で「#この白いのってクラゲさんかねえ」「#食べられるんじゃろうか」と書いているのですが、動物の背後に写っている物体のことを「アカウミガメ」に語ってもらっています。実際にこの物体はクラゲではなく、プラスチックバック(使い捨てのレジ袋)です。他にも、プラスチックのコップなどが写っています。ご存知の方も多いと思うのですが、「海洋プラスチック」が世界中の課題になっています。「McKinsey & Company and Ocean Conservancy」によると、現在1億5000万トンという膨大な量のプラスチックが海洋上に放出されてしまっており、「アカウミガメ」を筆頭に700種の野生生物に悪影響を与えている(参照)。亀の鼻にストローが入ってしまっている有名な動画もあります(参照)。その亀は幸い平気でしたが、プラスチックを食べてしまって息ができなくなり死んでしまう動物もいて、個体数をどんどん減らしてしまっているという現状があります。「綺麗だった海がこんなになっちゃっているんだけど」というのを、深刻に言うと深刻になり過ぎてしまうので、動物たちに少しとぼけてもらいつつ発信しています。
堀)
最近一部のスーパーでは取り組みが始まりましたが、日本では未だに多くのコンビニやスーパーでビニール袋を使用しています。世界を見渡してみると「プラスチックバックを使わないのが当たり前」という場所もだんだん増えてきていますね。
河村)
はい。環境省も10月に、海洋プラスチック問題解決に向けての「プラスチック・スマート-for Sustainable Ocean-」というキャンペーンの立ち上げを発表しました。嫌がらずに前向きに捉え、「いかに買い物を減らして自分のバッグの中でうまく収納できるのか」、「代わりに可愛いエコバックを持とう」などと考えていただけると、より素敵になるのではないかと思います。
堀)
そうですね。コンビニなど買い物をする際に、「#ANIMAL_SELFIE」の動物たちのことを思い出してくれたらいいですよね。
■ペットとして人気の「コツメカワウソ」 密輸の可能性も
河村)
「#ANIMAL_SELFIE」から、他にも動物を紹介させてください。「コツメカワウソ」という種類のカワウソです。「コツメカワウソ」は、東南アジア、中国南西部、インドなどに生息している生き物です。今日本で、この「コツメカワウソ」をペットとして飼われる方がすごく増えているんです。「#(ハッシュタグ)」で、「#おっきな鳥がいる」「#どこに連れてかれるんだ」「#家に帰りたい」、そして「#密輸」と書いています。「コツメカワウソ」は絶滅危惧種で、絶滅の恐れのある野生動植物の国際取引に関する条約「ワシントン条約」の中で、「附属書Ⅱ」に分類されており、「輸出については、事前に発給を受けた輸出許可書を事前に提出することを必要とする」と定められています(参照:ワシントン条約全文、ワシントン条約附属書(動物界))。それにも関わらず、ペットの需要が大きくなってしまったが故に、日本で高く売れてしまうという状況があります。
堀)
「ワシントン条約」によって条件付きで輸入しなければならないものが、日本でペットとして売られている現状があるということですか?
河村)
すごく細く申し上げますと、許可があれば輸出できます。また、日本で繁殖させた個体は、日本の法律上は問題ではありません。ただ、需要が大きくなると、「違法取引して儲けたい」と密輸を始める方がいて。日本だと1頭が約100万円で売られています。例えば、東南アジアから10頭密輸して、「5頭は死んでしまっても、5頭売れば500万円の儲けだよね」ということが起きています。約1年前も、日本の女子大生が10頭密輸して税関で摘発されたというニュースがありました(参照)。
堀)
そうですか。この写真を見なかったら、「コツメカワウソ」の密輸の問題は知らなかったです。買っている側は、「それが密輸かどう分からない」ということもあるんですか?
河村)
多いです。残念ながら「トレーサビリティ(追跡可能性)」が全く確立されていないので、日本で繁殖したのか密輸で入ってきたのかは、全く分からない。ペットショップがこうだと言えば、お客様はそれを信じるしかない。そもそも問題が知られていなので、そのまま買ってしまう人の方も多いです。「#ANIMAL_SELFIE」を通して問題を知り、ペットとして飼いたいと思っても「本当にいいのかな?大丈夫なのかな?」と考えてほしいと思います。
堀)
この情報を知っていたら、ペットショップで「コツメカワウソ」を見た時に、「どういうルートで仕入れられたんですか」と一言確認できますよね。
河村)
「#ANIMAL_SELFIE」から、「アムールヒョウ」も紹介させてください。「アムールヒョウ」が両腕でスマートフォンを持っているような写真にしています。「アムールヒョウ」の問題は、「#(ハッシュタグ)」にもあるように、「#森林伐採」「#森林火災」「#生息地の喪失」など、住処が失われているということです。「アムールヒョウ」はロシアの極東に位置するアムール州に生息しているのですが、ロシアでの過剰な森林伐採によって住処がどんどん無くなっています。個体数は、2007年のWWFの調査によると、わずか27〜34頭(参照)。小学校の1クラスの児童数よりも少ない個体数になっていました。しかし、WWFの自然保護活動が実り、10年経って現在は84頭になっています。新たに「アムールヒョウ」の赤ちゃんが生まれてきているので、次第に増えていっているのが分かっています。
堀)
「アムールヒョウ」の貴重な動画もあるんですよね。
河村)
はい。こちらの動画をご覧ください。WWFでは「カメラトラップ」という手法で個体数を調査します。木にカメラを巻きつけておくのですが、目の前に動物が通った瞬間だけ写真を撮ってくれるという機能を持ったカメラを機に巻きつけて個体数調査をします。「アムールヒョウ」の生息地で「カメラトラップ」の調査をしていたら、その地で繁殖できた個体が映っていました。カメラが気になって肉球をつけたり、自分の匂いをマーキングしたり、元気に走り回って餌を探したり、カメラに威嚇していたりという様子を見ることができました。
■「身近に感じられる寄付の形」で、支援を日常の一部に
堀)
WWFさんは、草の根的に、丁寧にアセスメントしながら活動をされているんですね。
河村)
環境保全活動をやりつつ、「#ANIMAL_SELFIE」で問題を知ってもらう。さらに、支援を集めて活動につなげるということをやっています。
堀)
Instagramからそのまま寄付ができるようになっているんですよね。
江上)
写真の下にあるショップマークは、今年の6月にInstagramで新たに始めた「ShopNow」という機能です。ECサイトに直接リンクを貼ることができるので、この機能を寄付に置き換えて支援まで気軽にしていただけるように考えました。今回は、支援ステッカーを3枚/1000円で購入する支援の形を用意しました。今回は「気軽に」をテーマにしているので、意思表明までを気軽にしていただけたらなと思って、ステッカーを選びました。
堀)
WWFの皆さんは、これまでにも様々な支援の形を提案されてきましたね。具体的に教えてください。
江上)
我々は「身近に感じられる寄付の形」をテーマに取り組んでいます。例えば、「WITH STAMP」というハンコを作りました。皆さんの名字に絶滅危惧種を組み合わせ、印鑑にしてお届けするという取り組みです。自分の苗字をきっかけに新しい動物を知ってもらえればという思いです。
堀)
どんな名前でもオーダーできますか?
河村)
日本人の9割はカバーしたのですが、残念ながら1割対応できなかったものもありました。残念ながらこのキャンペーンは終わってしまったので印鑑のご購入はしていただけないのですが、自分の名前を作っていただくことはできるので、ぜひサイト上で是非ご覧になってみてください。
江上)
また、「ネイルのデザインに絶滅危惧種を入れてみよう」と、「Donail」という取り組みも行いました。ファッションに取り入れた支援の形です。
堀)
なるべく日常の中に入っていけるということですね。逆に言うと、日常の中に入っていかないと、まだまだ意識の壁が高かったということですか?
河村)
おっしゃる通りです。環境問題に限らず、社会課題は興味がないものを身近に感じてもらうのは難しい。自分も「知ってる?」と聞かれたら、知らない事もいっぱいある。それを考えると、当たり前なのかなと思います。「知っておいた方が良くなる事が多い」という気持ちでやっています。
堀)
社会問題のタコツボ化してしまうというか。例えば子ども貧困でも、その問題を取り組んでいるチームや関心のある方々はどんどん詳しくなっていくのですが、一般的な感覚から離れていていってしまうという側面もある。それを接続するような取り組みをしているということですね。
江上)
はい。もう一つの取り組みが、「PANDA BLACK」です。「ひとつの服を大切に着る」というコンセプトです。少し汚れてしまっても、黒で染めて違う人に受け継いでいく取り組みです。
堀)
ちょっと黄ばんだり、シミがついたりしたものを、黒に染め直すということですね。
江上)
少し手を加えると、身近に感じてもらうことができます。
河村)
欲しくなるものじゃないと、やはり人は行動を起こしにくい。綺麗な黒に染められるよう、京都の老舗染色屋「京都紋付」さんにお願いしました。
堀)
こういうキャンペーンって、参加するとすごくワクワクできますよね。
■想像が及びにくい現場も、「知って」「アクション」を!
堀)
動物や自然環境への関心が、ようやく国際的なイシューとして上がってきました。改めて、日本国内の状況はどうご覧になっていますか?
河村)
「世界」と言った時に思い浮かぶのは欧米だと思います。「では、東南アジアはどうなんだ」という議論はあると思うのですが、「先進国」という括りで捉えるのであれば、やはり日本は残念ながら「遅れている」という言い方しかできないのが悔しいなと思うところです。
堀)
どういう点でそのように感じますか?
河村)
一つは、認知。もう一つはアクション。日本人が優れているのは、自分の身近なところでアクションできるところだと思います。例えば、ちゃんとゴミを分別する、エコバックを持つなど。自分の安心や安全にはセンシティブな方が多いのですが、自分の想像が及びにくいところに対するインパクト、例えば「東南アジアの森にどういうインパクトがあるか」ということへの想像が、あまり好まれないなという印象があります。興味を持ちにくいんだと思います。
堀)
例えば、ネットショッピングで「象牙」と検索すると、欧米系のサイトでは「動物愛護」「自然環境保護」の本が出てくる。ところが、残念ながら、つい最近まで日本の系列のサイトでは「ハンコ」が出てきていました。これは意識の違いですよね。
河村)
おっしゃる通りです。消費者もそうですが、消費者を言い訳にして手を打たない事業会社もあります。一部のECサイトでは対応を始めてくださったのですが、「あくまでもそれはお客様たちが勝手にやってくれるところだから」と特に何もアクションを取らないところがありました。
堀)
「#ANIMAL_SELFIE」の可愛い写真の向こう側の景色まで目が行くと、だいぶ意識も変わってくるかもしれませんね。
河村)
はい。WWFのホームページに来ていただければ、環境問題についての記事がたくさん載っていますし、先ほどお見せしたような動画もあります。動物たちの置かれている現場をレポートしているので、そういったもので知識を深めていただくと嬉しいなと思います。
堀)
ぜひ、「#ANIMAL_SELFIE」で検索してみてください。様々な情報に出会えます。寄付もお願いします。今日はありがとうございました。